恋愛狂騒

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太子は顔をしかめながら馬子の後についていく。

俯きっぱなしで機嫌が悪そうな太子を、後ろからついて歩く女官二人が心配そうに見遣っていた。


「ここだ」


馬子が襖の取っ手に手を掛け、そっと開いた。

案内されるがままに、太子は静かに腰を下ろす。

………すぐに終わらせて、すぐに帰ろう。

今日は朝廷が昼までだったはずだ。

自分もこれさえ終わらせれば他に仕事は入っていないし、もしかしたら……。


などと思考を張り巡らす太子に、ついに相手方の到着が知らされた。

厳かな雰囲気の中、現れた女性は、確かに美人だった。


(………すごい気合い入ってるなぁ。化粧濃すぎない?)


せっかく若いんだから、もっと自然にしてればいいのに、とそれだけ思うと後は何の感情も無かった。

例え彼女の化粧が薄くたって濃くたって、太子には関係ない。

お付きの者がお互いの紹介を簡単にして部屋の隅に下がる。

女性は喋らない。

当然と言えば当然だ、女性は慎ましやかなのが好まれるんだから、見合いの第一声を彼女が取ることは考えられない。

仕方無しに太子は口を開いた。


「……紹介にあった通り、私が聖徳太子だ。…よろしく」


見合いにしては素っ気なさすぎる態度で言い放った太子に女性は頷いた。

深々と頭を下げると名を名乗り、また頭を下げる。

そして品の良い笑みを浮かべたところで、部屋にいた他の役人達が下がっていき、二人きりになってしまった。

隠しきれず、露骨に顔をしかめてしまったのを見た女性が、くすっと笑った。

そして他に誰もいないのをもう一度確認して、口を開いた。


「貴方が伴侶を必要としていないことは分かっています。貴方ほどの殿方ならその気になればいくらでも嫁を取れるのに そうしない…分かりきっていることです」


他に誰もいないと分かった途端にペラペラと喋り出した。


「……だったらなんで来るんだよ。来るなよ」

「貴方が私を嫁に取って下さらないのを承知で参りました」


女性は頭を下げると上品に微笑む。

声は鈴を振るように可愛らしかった。


「お嫁にして頂けなかったからと言って両親にお叱りを受けることも覚悟しています。お嫁が駄目なら友人、ただの話し相手にでもなれればと思って来た次第です」


ご無礼をお許し下さい、と女性は笑った。


「お友達になって下さいませ」





馬鹿のように真面目で堅っ苦しい所作も涼しい顔でやってのけるほど自我がないように見えたが、そうでなければニコニコと笑って楽しそうにお喋りをする明るい女性だった。

冗談も言うし、普通の女性なら黙っているような愚痴も言う。

それでいて寛容な性格をしている。

とても話しやすい性格だった。

最初は渋るばかりだった太子も、いやでも女性とそりが合うことを自覚すると、次第に口数が増えていった。


(案外、面白い子だなぁ)


馬子さんの話や竹中さんの話をしても彼女はおかしそうに笑っている。

聞き上手で、普通なら変だと言われる太子のことをそう言わない。

知らないうちに妹子のことまで話していた。

流石に恋仲であることは言えなかったが、妹子がすぐ怒ること、でも本当は優しいと言うこと、色んな話をしていた。


そろそろ見合いも終わる頃になった時、太子は陽が山の向こうに落ちていくのを見遣ってから笑った。


「最初、冷たくしちゃってごめん。また、話し相手になってくれるかな」

「はい、勿論です」


女性はにっこりと笑った。










『結婚は女の永遠の夢にございます』


いつしか母が言っていた。

素敵な男性と巡り会って、そばにいることができたなら。

「お母様は幸せなんですね」と言った妹子に、母は嬉しそうに頷いた。


「……結婚、か」


あまり考えたこともなかったけど、両親が勧めるならいつかはするかも知れない、ぐらいのものだった。

けれど今は、頭が痛くなるほど意識していた。

嫁を貰う、という意味ではない。


妹子はぐったりと壁にもたれ掛かって座りながら溜め息を吐いた。

無性に涙が込み上げた。


「………僕が女の子なら…太子の…」


………何と血迷ったことを。


ブンブンと頭を振って涙を拭いた。

男を捨てたい訳じゃない。

こんな女々しいことを考えるつもりじゃなかった。


「………ただ、僕は太子のそばにいられれば何だっていい…」


そうだ。

女なら結婚できるのにとか、そんな事は思っていない。

ただの恋人としてではなく、一生を共にする一番近い存在としてそばにいたいだとか、そんな事は。


「………愛妻家…だろうなぁ、太子のことだから……」


きっと大切にするだろう。

僕が女で、結婚できたとしたら。

………見合いの相手と結婚したとしたら。

親しげに歩く太子と女性の姿が簡単に想像できた。

脳裏に映る映像を潰すようにきつく目を瞑ると、涙の粒がポトリと男物の朝服に落ちた。


「……っ女に生まれれば…もう少しは……ッ」


こんな苦しい想いも、和らいだのかな。





*了*


アトガキ



今回出てきたお見合い相手の女性ですが、多分チョイ役ですので名前すら決めてません。
容姿のイメージすらないwwww
まあとりあえず美人です、ええ、ものっそ美人です。
可愛いと綺麗をいい感じに混ぜた感じかな?^^
もともと登場人物が少ない小説なので、チョイ役って言っても結構目立ちますけどね…。
なんか書いてるうちに、太子はこの女と結婚すべきじゃね?とかいけないことを考えてしまいました(笑)。
駄目だ駄目だ!笑

妹子がなんだか女になりたいみたいなことを言ってますが大丈夫です!笑
ちゃんと男の子です、じゃなきゃBLじゃねえ!笑
にょたも大好きなんですけどね…。
何気ににょたネタって書いたことないな…。
書いた事はあるんですが、作品としてウェブ上に出したことはございません。

でも学校の漫画部で出した冊子に出した漫画で主人公が女体化したことはあります。

今思えばすごいことしたなwwwww
妹子も太子も、にょたになっても可愛いだろうなあwww←


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