恋愛狂騒

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「また……酷いことをすることになる、かな…」


ここの所、毎日のように着せられている堅苦しい礼服を鬱陶しげに払いながら、摂政は呟いた。


「何度も繰り返すなんて、私は……」


何度も、何度も。

自分を中心に悲しみの連鎖は続く。


「………」


なのに今回に限ってはそれを促そうとしている自分がいるなんて、



「………え?」


その時 視界に入った、ある一室。


――血?


「!」


そこに倒れていたのは、よく見知った彼の血塗れの姿だった。



「――妹子!!」





第四章【騒ぎの結び】



15・麻薬





「…ん…」


まどろみの中から浮上する意識。

ぼんやりしながらパチパチと目を瞬くと、その先に天井が見えた。

身体に感じる柔らかい感触。

布団に寝ている。


「…!?」


驚いて身体を起こそうとすると、すかさず手が伸びて それを制止された。


「まだ寝てなきゃ駄目だろ!?傷が開くから…っ」

「え……」


――この声は…。


手を辿ると、そこには心配そうに自分を見つめる青ジャージの男がいた。

気が付くと自分もあの赤い袖なしのジャージを着ていた。

これを着たのは隋に行った時以来だ。

朝服は恐らく血塗れで……着替えさせられたのだろう。

例えばこの目の前の、青ジャージによって。

ここ数日、いや数週間。

会いたくて仕方がなかった恋人。

――聖徳太子。


「太子…!?」

「ん。…久しぶり、妹子」


久しぶりって、と妹子は反抗しようとしたが、力無く微笑む彼が何だかとても疲れているように見えて、思わず口を噤んでいた。

顔色が頗る悪い。

けれどずっと会いたかった人が そこにいる。


「っ…太子…」


涙が滲むのも構わずに その胸に飛び込むと、彼は苦笑しながら受け入れてくれた。


「太子…っ!今までどうして……僕、僕…!」

「…私にそんなに会いたかった?」

「会いたかったですよ!太子の…馬鹿…っ!」


くす、と笑った太子が優しく妹子を抱きしめてくれた。


「私も…会いたかった……」


しばらく抱き合うと、自然と二人の目が合い、そして当然のように唇が重なった。

久しぶりの感触。

泥沼から救い出されたような安心感に、妹子はそっと身体を預けた。


「っ!」


太子の背中に回そうとした腕がチリッと痛み、顔をしかめる。


「この…傷……」


手当され、包帯が巻かれた その下から血が滲んでいる。


「……妹子、傷だらけで倒れてたぞ?血、いっぱい出てたけど…どうだ?クラクラとかしない?」


心配そうに訊いてくる太子の視線に微笑みで答える。


「大丈夫です。心配かけてごめんなさい…」


妹子が無事だと分かると、ほっと安堵の息を吐いた太子の表情が今度は険しくなった。


「妹子、これ、自分でやったの?」

「………」

「右手に小刀を握って左腕に怪我をして倒れてたところから推測しただけだけど…」

「…そうです。自分でやりました」

「………」


太子の苦しそうな表情に胸がチクリと痛む。

自分の身体を傷付けたところで他人なんて関係ないはずなのに、太子がそんな悲しそうな顔をするだけで急に罪悪感が溢れてきた。




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