恋愛狂騒

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「どうしよう…またひどいことしちゃった…」


弱々しく縋り付いてくる幼い子に、青年は沈痛な表情をした。


「どうして?私はただ、仲良くしたいだけなのに……」


泣きじゃくるこの子が哀れで仕方がない。

愛しくて、助けてやりたいのに、自分はただ話を聞いてやることしか出来ない。


「太子…大丈夫。いつかきっと、いつかきっと救われる……」


可哀想な人間の子を、ただただ ぎゅっと抱きしめていた。





13・盲信





まだ誰もいないような早朝。

僕は呼ばれるように目を覚まし、まだ親も起きていないような時間に入廷した。

朝靄に包まれた朝廷内を、ぼーっと歩き回る。

覇気はないけど、これでも気分は頗る良かった。



心地良い静寂の中を歩いていると、庭に誰かが立っている…人影を見つけた。

酷い靄でよく見えなかったが、それは次第に姿を現していった。

特徴的な影で何となく分かってはいたけど、やっぱり彼だ。


あの、魚の男。

フィッシュ竹中とか言ったっけ?


僕は別段驚くわけでもなしに「どうしたんですか」と訊いた。


「僕に何か用ですか?」


魚の男は静かに頷く。


「分かるだろう?あいつのことだ」


太子のこと。


「…イナフ、今ならまだきっと、戻れるはずだ。優しい君に」

「その言い方じゃ、今の僕が優しくないみたいですね」


僕は笑って答えた。

滅多にしたことがない、人の好い無邪気な苦笑だった。


「僕は今も昔も変わりませんよ。僕のままです。…どうしたんですか?」

「君はおかしくなっているよ」

「………」


おかしく?


「駄目ですか?これが僕の本音だったら」

「そんな事では幸せになれない。…太子を苦しめるだけだ。それは私が許さない」


…許さない、って?


僕は急に不機嫌になっていた。

切り捨てるような冷えた声で呟く。


「貴方に言われる筋合いなんかありませんよ」


話はこれでおしまい、というふうに背を向けて歩いていく。


不快。

不愉快だ。

ようやく出勤してきた役人達が、廊下を早足で歩く僕を不思議そうに見ていく。


嗚呼、不快だ。

誰も彼もが僕を認めてくれない。

行き場がないんだ。




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