恋愛狂騒

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偶然のことであったにせよ、男は見ていた。

朝廷の廊下で着物を運ぶ女とすれ違い、彼が起こした行動の全てを。

まさかと思ったが、男は やれやれとでも言うふうに頭を振る。


致し方のない、ことだ。





12・異変





今日も今日とて朝廷は回る。

僕らが配属される層は仕事も一山越えた感じで、もう随分と落ち着いていた。

あの嵐の処理をするように、「小野、この報告書を提出してきてくれ」というような細々とした仕事が回ってくる。

朝廷内を歩いていると、廊下や部屋の壁際で談笑をする役人もちらほらと見受けられる。

こういった光景を見ると、一段落ついた感じで安心したものだ。

…でも今は、そうじゃなかった。


(…もやもやする)


胸の奥がむずがゆい。

チリチリと焼けて、つい溜め息が出る。

気付くと眉間に皺が寄っている。

苦しい。


廊下の角で身を捩る。

この身体に、心に燻るもどかしさ。


熱の篭もった息を吐いた。


「っ太子……」










何日経っても馬子様が僕を呼びに来ることはなかった。

太子はそんなに真面目に仕事をしているのだろうか?

僕のことなんて忘れているのだろうか。

…僕は太子に、こんなに会いたいのに…。

太子は僕がいなくても平気なのかも知れない。

彼は あれで摂政だから、一人 人に会えないぐらいでは何ともないのだろう。


太子は今、何をしているだろう?

食事はちゃんと摂っているだろうか。
(ああ、そう言えば僕も朝から食べてない)

女官に着付けを手伝われていたら。
(思わず立ち上がりかけてやめた)

まさかノリノリでブランコに揺られたりしてないよな?
(でもその方が太子っぽくていいかも知れないな)





思い立って、上官の集まる区域へ向かった。

以前太子が喜んでくれた手土産を持って、嬉しいような怖いような、緊張を感じながら歩く。


「あの、聖徳太子に謁見したいのですが…」


廊下に立つ番に声を掛けると、思いがけない答えが返ってきた。


「すみませんが、それは出来ません」

「…え?」


当然会えるものと何故か思い込んでいたところに返ってきたその答えに、妹子は顔を顰めた。


「どうして…」

「特にこれといった用もないのにお通しする道理はないでしょう」

「っでも……」

「皇子は多忙ですから、お引き取り下さい」

「………」


無性にイライラする。

それを感じながら、僕は下がった。



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