恋愛狂騒

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朝廷の隅で、ひそひそと語り合う人達がいた。


「知っているか?この前の…」

「ああ、気の毒だったな…」

「憶測が憶測を呼ぶ。真実は何処にあるものか…」


何故か、今になって先日の煙のことを思い出した。





第二章【愛の承り】



9・竹中



「妹子殿!妹子殿!太子が木に登ったまま降りられなくなってしまったんですが…!!」


(アイツは猫かーー!?)


仕事中、血相を変えて飛んできた役人に、妹子は呆然とした。


「至急妹子殿を呼んでくるようにとの馬子様のご命令で…っ」

「…分かりました。今向かいます…」


僕は筆を置いて重い腰を上げ、歩き出す――


「頼みましたよ、妹子殿ー!」

「はい…」


迷惑ながらも渋々頷く――


――ふりをする。





「おはようございます太子」

「おお、妹子」


太子の仕事部屋のそばの庭に着くと、太子がブランコを吊った枝に座って足をブラブラさせていた。


「うーん、こうして見ると妹子はますます ちっさいなー」

「よ、余計なお世話ですよ…」


太子はヒョロいが、身長は何気に高い。

僕だってそこまで小さいわけではない、太子がデカいのだ。


「で?太子、本当に降りられなくなったんですか?」

「アホか!私は摂取だぞ!こんな木 簡単に飛び降りれるわい!」

「だったらさっさと降りてきて下さい。今日は日差しが強いので、とりあえず屋内に行きましょう………太子?」


振り向くと、嬉しそうに微笑みながら足をブラブラさせて僕を見ている太子がいる。


知っている。

太子が問題を起こすのはいつもの事だが、その度に僕が駆り出されることを知っていて、ここ最近の太子はわざと問題を起こしている。

それを分かっていて、僕も毎日太子の所へ向かう。


太子の視線が恥ずかしくて、でも嬉しいので思わずニコ、と微笑み返すと、太子が顔を真っ赤にして木から滑り落ちた。


「だ…大丈夫ですか、太子?」

「な、なんとかな……あービックリしたー」


僕もびっくりしたけど、さっき太子が言っていた「簡単に飛び降りれる」は多分 嘘なので、かえって良かったんじゃないかと思う。


「妹子、当然 部屋に寄ってくよな?」


偉そうな言葉とは裏腹に、子どもが寂しがっているような声色だ。


「そうですね…仕事は大体済ませてあるので、お邪魔します」

「よっしゃ!」


ガッツポーズをして僕の腕を掴み、歩いていく太子。


(太子って人は…)


まあ、この方が太子らしいけどさ。


「太子、」

「ん?」


振り向いた太子に、掴まれた手を上げて見せる。


「手、捕まれるんじゃなくて……繋ぎたいです」

「!…そ、そうか」


恐る恐る、優しく手を握ってくれる太子に微笑みかける。


「ありがとうございます、太子」

「…あ、あぁ、いや…これぐらい…」


それじゃあ行くか、と言って手を引く太子は、僕が今まで誰にも感じたほどがないほど、愛しかった。







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