恋愛狂騒

□03
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そんな時だ。


「……あ」


あまりにも求めていたせいで、一瞬幻でも見たのかと思った。


「妹子?」

「…ありました。ありましたよ、太子…」

「何が?100円玉?」

「この時代にねえだろソレは!違いますよ!クローバーです!四つ葉のクローバー、ありましたよ!」

「えっ!?」


太子は慌てて僕が指差す先を見る。

地面に這い蹲ってそれを見たかと思うと、ガバッと顔を上げて僕の両肩を掴んだ。


「ほっ…本当だ!四つ葉…四つ葉だぞ、妹子!」

「知ってますよ、僕が見つけたんですから…」

「やった!もしかしたらここには無いんじゃないかって思ってたんだ。ああ良かった…!」


太子は喜びに震える手で そっと四つ葉のソレを摘み取ると、赤い夕日にそれを翳してにっこりと微笑んだ。


「近々必ず良いことが起こるぞ…。やったな、妹子!!」

「……ええ、やりましたね…太子」


その時、僕は不覚にも太子に見とれていたのだと思う。

キラッキラの笑顔は、多分僕が今まで生きてきて初めて見たってぐらいに澄んでいた。


「?妹子…それ、何だ?」

「え?…あ、」


すっかり忘れてたけど、土産を持ってきたんだった。

僕は置いてあったソレを取ると、太子に差し出した。


「久しぶりに会うんで、何か持っていった方がいいかと思って…。甘いもの、好きですか?」

「食べ物なの?」

「…物を差し上げようにも きっと僕が差し上げる物よりも良い品を持っているでしょうし、食べ物も良い物を食べているでしょうから すごく迷ったんですけど……それなら珍しい食べ物でもと思って」


僕の実家の近くにある珍しい店の品です、と言って差し出す。

しかし太子は無言でその箱を見つめている。


「………」

「…す、すみません。こんなの言い訳ですよね…。何かもっと良い品を…」


僕が箱を引っ込める前に、太子の白い手が僕の手を包み込んだ。


「!」


驚いて顔を上げると、そこには「へらっ」という音が似合いそうなふにゃふにゃの笑顔。


「私のためにそこまで悩んだんだな。ざまーみろ妹子めー」

「……っ!」


言い返せ、ない。


「仕方ないな、貰ってやろう。私は摂政で優しいからな」

「た…太子……」

「ん?」


七色の笑顔、とでも言おうか。

顔が熱くなるのを自覚しながらパクパクと口を開閉する妹子を見ておかしそうに笑う太子は、今度はすごく大人の顔をして笑っている。


「ほら、暗くなってくるぞ妹子」


立ち上がった太子の後を追ってフラフラと立ち上がると、急に視界が暗くなって前に傾いた。


「うわっ!?」


そして太子に、受け止められて。

細い身体で必死に僕を受け止めながら、顔は余裕の表情で笑っていた。


「立ち眩みか?」

「…そうみたいです。すみません。最近仕事尽くしだったんで…」


慌てて離れようとする僕の耳元にあった太子の口が、また動いた。



「今日は、ありがとな…妹子」

「!」





「……な、何がですか」

「私と一緒にいてくれたことだよ」

「そんな事……」

「いや、いいんだ。私は四つ葉のクローバーよりも、土産よりも…そっちの方が嬉しかったからさ」


にっこりと笑って僕を見る太子。

隋にいた時より、今までのどんな時よりも、太子が綺麗に見える。


白くて華奢な身体も、クローバーを探した泥だらけの手も、カレー臭いジャージも、どうしてだろう、彼なら、彼だからいいって気がして。



「…太子、綺麗です」

「は?…何て?」


僕はこんな事を思う自分に驚きながらも素直に繰り返した。


「太子……とても、綺麗です…」


彼は数回瞬きした後で笑った。


「…やっと気付いたのか、アホ芋め。私がカッコいいのは当たり前だ」


いつも言うような下らない台詞を、それは静かな笑顔で、静かな声で言ったのだった。


無性に、つらくなった。





*了*








アトガキ



妹子!
そいつはただのオッサンだ!
目を覚ませ!!!笑

いやいやそうはさせないぜ太妹万歳…!!

マジで恋する5秒前ってヤツですね!!←

ていうか今回のアトガキまともな事書いてませんね…!笑



【2008/07/28】

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