恋愛狂騒
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「あの方角は…僕みたいな身分じゃ中々入れない所だな…」
その時、後ろで枯れ草を踏む音がして妹子は振り返った。
「ここにいたのかね、妹子殿」
「貴方は……」
蘇我馬子、ではなかったか?
妹子は思い出すなり慌てて頭を下げた。
「すっ、すみません!何のご用事でしょうか…っ」
「そう硬くならんでくれ。君に書簡を持ってきた。重要な書簡だ」
「僕に…?」
妹子は顔を上げながら一つの書簡を受け取った。
中々によく出来た書簡だ。
「ここで開けても…?」
「構わない」
つまりそれだけの内容が書かれているのだからと、妹子は緊張しつつもその紐を解いた。
さらりとした紙面上に並んだ文字。
「…え……………えぇッ!?」
小野妹子。
遣隋使。
勅命。
聖徳太子。
「え、えぇっ…えー?」
妹子は書簡を持って狼狽えた。
その様子に馬子が笑う。
「僕が遣隋使なんて……本当ですか…?」
「聖徳太子直々のご命令だ。君が選ばれるとは予想していなかったが、この選択には確かに私も納得しているのだよ」
「聖徳太子が…僕を…」
妹子はジーンとしながら書簡を感慨深く眺めた。
自分の今までの働きが報われたようで、嬉しくて仕方がない。
「正式な答えは後日貰うとして、君は日程などのことも考えて準備を整えておきなさい」
「はい!ありがとうございます!」
書簡を大事に抱き、頭を下げると馬子がまた笑った。
「私ではなく、太子に感謝すべきだろう」
そう言って立ち去った馬子の背を見つめ、妹子はぼんやりと呟いた。
「太子…。…聖徳太子…」
妹子は聖徳太子に会ったことは愚か、見たことすらなかった。
自分を遣隋使などという大役に任命してくれた聖徳太子。
「一体どんな方なんだろう…」
馬子様みたいな人かな。
官位十二階など彼の功績を聞く限り素晴らしい人物であることは確かだ。
「この書簡から…変わるんだ。倭国のためにも、僕のためにも……」
その時 既に、あの女性の悲鳴のことなど、とっくに忘れてしまっていた。
*了*
アトガキ
第一話終了ですが、ヤンデレのヤの字もないですね!笑
実はまだしばらくヤンデレ妹子は出てきません。
そのうち!
そのうち出てきますのでご安心を!笑
朝廷とかの難しい設定に関してはほとんどオリジナルですので、史実としてはアテにしない方が良いです、申し訳ありません…!orz
それでは、第一話はこの辺で御挨拶とさせて頂きます^^
【2008/07/25】