BOOK_EINBRECHER
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04・泥棒、惚気る。
それは、たまたま朝早くに起きてしまったあさきが、まだ他に誰もいない食堂で早めの朝食を摂っているときだった。
「食堂のおばちゃんのご飯は本当に美味しいなぁ…」
独り言を言いながら幸せいっぱいにおかずを頬張っていると、
「お前、随分美味そうに食べるなぁ…」
「うわあああぁッ!?」
突然かけられた感心するような声に、あさきは驚いて箸を放り出した。
おかずが喉に詰まり、涙目で胸を叩くと、慌てて湯呑を差しだしてくれたのは、深緑の忍装束を着た食満留三郎だった。
恐らく声をかけてきたのも彼だろう。
あさきはバクバク煩い心臓を落ちつけながら、お茶でおかずを押し流す。
「………っはぁ……はぁ…!!」
「わ、悪かったな、いきなり声かけて……大丈夫か?」
「はい…っすみません…」
「いや…俺が悪かったよ」
苦笑しながら向かいに座った留三郎に、あさきは今度はお茶で噎せそうになった。
「あっ、あの、お向かいですか!?」
「いや、今日はまだ早いからお前しかいなかったし…顔見知りがいるのにわざわざ離れることもないだろ?」
お前、随分早く起きるんだなぁと留三郎が感心したように言った。
いつもはこんなに早くはないが、確かにあさきは早起きだ。
泥棒時代は自由に寝たり起きたりしていたが、今は同室のタカ丸より先に起きて、男装がバレないようにさっさと仕度を済ませている。
(ていうか、それはいいんだけど…)
今は自分の早起きのことよりも、目の前にいる留三郎が気になって仕方がない。
(だから私は、貴方のこと怖いんですーーー…!!)
編入生騒乱の一件で、特に文次郎と一緒になって暴れ回っていた彼が怖くて仕方がない。
なるべく目を合わせないようにしていると、食堂のおばちゃんが留三郎の分の朝食を持ってやってきた。
「はい、食満くん!お残しは許しまへんでぇ!」
「ありがとうございます」
にこりと人当たりのいい笑みを浮かべて受け取る留三郎に、あさきはパチッと眼を瞬いた。
「………」
「……ん?俺の顔に何か付いてるか?」
「あっ、いえ!付いてません、けど……」
彼は意外に普通なのかもしれない。
そう言えば、彼は伊作と同室で同クラスだったはずだ。
確かに彼は怖いが、彼が知っているかもしれない伊作の情報は気になる。
あさきは湯呑を置いて覚悟を決めると、恐る恐る声をかけた。
「あの、食満先輩って、善法寺委員長と同室なんですよね?」
「ああ、同じクラスだしな。伊作とは一緒にいることが多いよ」
「!」
善法寺委員長といつも一緒だなんて羨ましい!!と叫びそうになったのはグッと堪えて、「そうなんですか」と曖昧に相槌を打った。
「善法寺委員長は、いつもあんな方なんですか?誰にでも優しいし、傷の手当てとかだって…」
「世話を焼くのが好きっていうか、あれはもうおせっかいに入るんじゃないか?」
「でも、いいと思います!すごく親切で、頼りになるし…!!」
「まあ、そうだな」
留三郎は物静かなままお茶を飲むと、「お前って」とあさきを真っ直ぐ見つめる。
「伊作のことになると、俺のことも怖がらないな」
「!?」
怖がっていることがバレていた。
というか、伊作のことになると怖がらないとはこれ如何に。
「そ、そんなことないです、ていうか、怖がってるとか、あの、ごめんなさい…」
「いいって!後輩に怖がられんのは慣れてるよ」
留三郎は苦笑しながらも息を吐く。
「お前、変な奴だよなぁ。自分から保健委員会に入りたいなんて。そんなに伊作が好きか?」
「えッ!?す……え!?」
あさきがうろたえると、留三郎はプッと噴き出し、机を叩いて笑いだす。
その様子にあさきはポカンとするしかなかった。
「悪い悪い!この前も、伊作をかなり慕ってるみたいだったから…。今俺と喋ってるのも、伊作のことを気にしてるからだろ?」
「えっと…それは」
「気にするな。訊きたいことがあるなら訊いていいぞ?」
優しい声で言ってくれる留三郎に、あさきは控えめに切り出した。
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