DZM1
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「永遠に生きるってことは、永遠に苦しむことと同じだな」
水の音がする。
激流とも言えるほど、勢いよく流れる水の音だ。
その中に凛と響いた声を、私ははっきりと聴きとることができていた。
覚悟をしたような、静かだけど意志の込められた強い声。
「終わらせてやるよ、全部」
「――ッ!」
ハッと目を開けた途端に視界に飛び込んできた光景に、私は思わず身体をグラつかせていた。
制服のスカートを靡かせる風の強さに持っていかれてしまわないように足を踏ん張る……そこは、崩壊したダムの上だった。
「…!?」
壊れたダムから、真っ赤な水が勢いよく流れ出ていた。
何もかもを飲み込んで行くような激しい勢いだ。
(私はなんで…こんなところに…)
この赤い水があるっていうことは、もしかすると、ここが宮田さんや恭也くんがいた世界ってことなんじゃないか?
ダムの高さにクラクラしながら辺りを見回すと、ダムの下の方に何か…沢山の影が蠢いているのが見えた。
「!」
人だ、と思って目を凝らして見れば、それは人であって…人ではないことにすぐに気が付いた。
みんな、動きがおかしい。
赤い水に足を突っ込みながら、苦しみ悶えるようにウネウネと動いている。
無数の呻き声がいくつも重なって、私の耳へ届いた。
(これが…もしかしなくても、化け物…?)
宮田さんや恭也くんは、こんなのを相手にしていたんだろうか。
ダムの様子を眺めて呆然としていると、視界の端に、ダムを下へと降りて行く黒い影が過った。
ハッとしてそっちを見ると、見覚えのある特徴的な黒衣を身に纏った男性の後姿がそこにあった。
この、頭がおかしくなってしまいそうな恐ろしい光景の中で、たった一人だけしっかりとした足取りでダムの下へ…化け物達の元へと歩いて行く。
「………」
私は混乱して何も言えないままそれを眺めていた。
………彼は、これから、何をする気なんだろう?
あんな恐ろしい化け物が蔓延っているダムの下へ降りて、これから何をするの?
『終わらせてやるよ、全部』
「!!」
先程、意識が覚醒する瞬間に聞こえた声がもう一度脳裏を過った。
「あ……っ」
そして何もかも全部分かった。
「ま、待って…」
動こうにも怖くて動けないまま、私は震える声でそう言った。
「待って下さい…そっちに…行かないで……!」
あれは、宮田さんだ。
以前にも砂嵐と一緒に見たことがある。
この光景は、宮田さんが私の前に現れる直前の――
つまり、死ぬ直前の。
「待って下さい!そっちに行かないで下さい…戻ってきてください!!」
私はやっと大声を張り上げて宮田さんの後ろ姿に訴えたが、このダムの激流のせいで、彼には何も聞こえていないようだった。
…追いかけなきゃ。
宮田さんは死のうとしている。
今ここで、全部、終わらせようとしているんだ。
あの化け物達の命も、宮田さんの命すらも、全部。
「そんなの、駄目……」
止めなきゃいけない。
「これだけは……それだけは、絶対に…!」
私の唇から勝手に、そんな声が漏れた。
何だか変な感じがする。
ふわふわと浮いているような気がするのに、足はしっかりと地に付いている。
そんな違和感を感じながらも、私は宮田さんを追うために走り出した。
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