DZM1

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勝手にベンチから立ち上がり、歩きだそうとした私の身体。

一体どうなってしまったんだろう?


一生懸命、歩いてしまわないように踏ん張ってそこに立ち尽くす。

俯いて唇を噛んでいると、ふと肩に手の感触があった。


「おい、」

「!?」


びっくりして顔を上げると、そこには知らないスーツ姿の…おじさんがいた。

誰だろう…?

ちょっと不思議に思ったけど、おじさんの姿を見た瞬間、私の身体から変な力が抜けるのが分かった。

不安も感じなくなった。


「え、あれ…?」

「君、大丈夫かい?」


おじさんに心配そうに訊かれたので、私は慌てて頷いた。


「だ、大丈夫です!ありがとうございます…」


おじさんは納得したように頷いてくれた。


「そう、だったらいいんだ…。それより君、ここに一人で、誰か待ってるの?」

「え?ああ、えっと…」


親切心で訊いてくれてるんだとは分かっているんだけど、知らない人にそういうふうに訊かれると焦る。

私は何とか宮田さんのことを伝えようと思ったが、それより前におじさんが私の肩をもう一度持った。


「女子高生だよね?綺麗だよねぇ」

「え?あ………え?」


綺麗?

女子高生が?

ど…どういう原理で?


「良かったら今から、おじさんとご飯とかどうかな」

「え…っ?」


私はポカンと口を開けてかたまってしまった。

そして思い付く。

これって、ナンパ…みたいな。

下手したら、売春…とか?


私は一気に思い出した。

ここは夜の街中だ。

こんなところで女の子が一人立ち尽くしてたら、そういう誤解をされて声をかけられたっておかしくないっていうこと。


やっと全てを理解した私は慌てて後ずさった。


「い、いえ!すみません、違います、私…!」

「おこづかいならあげるから、ちょっとだけでいいから」

「でも、そんな…っ」


やけに積極的なおじさんに私は困ってしまう。

こんなふうに声をかけられるなんて、生まれて初めてだ。

だって今まで、こんな時間にこんなところに立ってたこともないんだから。


「ご飯の美味しいお店紹介してあげるから、ほら」


一見、すごく優しく誘ってくれる知らないおじさん。

でも、その優しそうな感じが逆にすごく怖い。

何も言えなくなって、視界まで滲んできてしまった。

怖い、怖い、怖い。

こんな知らないおじさんとご飯何か食べに行って、何が楽しいの!?

話すことなんて何もない。

一緒にご飯なんか食べる義理もないのに!


「い、いやです、だからっ私、…ッ!?」


その時、また急に心臓がギュッと痛くなった。

反射的にしゃがみ込んだ私に合わせて「どうしたの」とおじさんが屈もうとして――。




「――俺の連れに何やってるんですか…?」




私が振り向いて見上げると、そこには、暗闇の中でも分かるほどものすごく怖い顔をした宮田さんが立っていた。



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