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「いろは!名前を呼ばれなくってもいいって!もっと考えることがあるって!まさか浮気のことだったのー!?」
「ち、違うよ沙織!だからあの人は私の知り合いで…!」
教室のど真ん中でお箸をガンガンやりながら叫ぶ沙織に、私は必死で弁解をしていた。
賑やかで平和なお昼休み。
一人で延々自己暗示を繰り広げたことによってなんとか元気を取り戻した私は、沙織と一緒にお昼ご飯を食べていた。
「あんまり叫ばないでよ沙織…!ただでさえ、いつ先生が私を呼び出すかってビクビクしてるのに」
「あの茶髪の男子は一体誰なんだね」とか、今日中にでも誰かが聞いてきそうで恐ろしい。
ああもう、何て答えようかな。
従兄弟とかが妥当?
「気が付いたらいきなりそこにいるんだもん、ビックリしたわよ!へらへら笑っていろはのこと“いろはちゃん”、なーんて呼んでるし」
「ホント誰なのよ!」とか言われても、そんな事は私が訊きたいです。
「あ、それといろは…朝から思ってたんだけど、顔色が悪くない?」
「…え、嘘」
沙織がまじまじと私の顔を覗き込みながら、小さく頷く。
「うん、悪い悪い。赤みってもんが足りない。大丈夫なの?」
「んー…ちょっとフラフラするけど、気にするほどじゃないかな?」
ていうか気にならない。
ちょっと調子悪いかもー、なんて悠長なことを考えていられる一日じゃなかったもんなぁ…。
苦笑しながら「大丈夫だよ」と言うと、沙織も「そう?」と昼食を再開した。
「でもまあ、無理はしないでね?」
「うん、ありがとう」
相変わらず沙織は心配性で優しい。
なんだか…ちょっと気が楽になったかも知れない。
そう思いながらお箸を進めていると、お昼の放送の音楽がブツリと途切れ、校内放送が始まった。
そしてその内容を聞いて、私は固まってしまった。
『三年の奥山いろはさん、 至急職員室まで来なさい』
「………案外早かったわねぇ」
「そ、そうだね」
呼び出されてしまった。
用件は分かってる。
勿論、さっきの授業で私が突然現れた部外者“須田恭也”を連れて逃げだしたことについてだ。
ああ…来るだろうとは思ってたけど。
私は泣く泣くお昼ご飯を中断して片付けると立ち上がった。
「じゃあ沙織…ちょっと行ってくるね?」
「職員室まで一緒に行こうか?」
「そんなの悪いよ!先に食べてて?」
にっこりと笑って教室を出たけど、廊下に出ると同時に溜息が洩れる。
(なんて言おう…。「あの人は私の従兄弟で」!「お、大阪からはるばる遊びに来てるんですけど私の学校が気になって押しかけてきちゃったみたいです〜」?)
私は頭でそんなことをぐるぐる考えながら職員室へと向かった。
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