DZM1

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気付けば視界は、テレビみたいな砂嵐だった。


「……?」


ぐっと目を細めると、やっとちゃんと周りが見えてホッとする。

それと同時に、ここは何処だろうという不安に駆られる。

なんだか真っ暗な山道…まさか野犬なんて出ないだろうか。


辺りを見回しながら歩き出すと、私は前方にすぐに人影を見つけた。


「あっ…!」


慌てて走り出す。

近づくごとに、その人影に見覚えがある気がした。


(あれ…?)


白い白衣、短い頭髪。


私は驚きながらもその名前を呼んだ。


「――宮田さんっ!」


その人は私に呼ばれて立ち止まると、ゆっくりと振り返った。










「…あ…あれ…?」


宮田さんが振り向いたと思ったのに、瞬きをしたらそこには誰もいなかった。


「あれ?っ宮田さん…?」


慌てて辺りを見回す。

相変わらず真っ暗だけど、今度は山道じゃないみたいだ。

私は道路の上に立っている。


「ここは…」


おろおろしていると、また人影を見つけた。

今度は黒い人影で、服は初めて宮田さんに会った時に来ていた服にも見える気がする。


「あ…っ、待って下さい!!」


走り寄ろうとするのに追いつけない。

向こうは歩いてるだけなのに…。


――パン…ッ!!


「!?」


一気に視界が黒くなる。

今の音は多分、銃声。

私は立っているのか歩いてるのか分からなくなって、思わず頭を抱える。

…何か聞こえる…………歌…?


「何の歌だろう……天に、おわす…何…?」


頭が痛い。

怖い…!!


強く頭を振って立ち上がる。

思いきり走り出す。

瞬きをするごとに変わっていく世界。


白い建物、森の中、広い交差点…。


「ゆ…夢だ…これは、悪い夢なんだ…!」


起きなきゃ!!


走っていると、後ろから水の音が聞こえてきた。

走りながら振り向いて、私は引き攣った悲鳴を上げる。


「ち、血…!?」


真っ暗な世界を、後ろから赤が追いかけて侵食してくる。

逃げないと、私までこの赤い水に飲まれてしまう。

私は感覚のない足を一生懸命に動かした。


「お願い…覚めて…覚めて…!こんな夢、見たくない…!!」


その時、足が縺れて、私の身体が宙に放り出された。


「あっ…!!」


もう駄目だ、そう思ってきつく目を瞑った時、転びそうになる私の左腕を後ろから誰かが掴んだ。


「!?」


そこにいるのは悪魔だろうか…恐る恐る目を開けて振り向いた。


「だっ、誰――」

「君、なんでこんなとこにいるの!?」

「…え?」


私を見て心底びっくりしている男の子。

なんでこんなとこにいるの、なんて私が聞きたい。


「どなた…ですか…?」

「今は俺のことなんてどうでもいいって!こんなとこまでどうやって来たんだよ」

「どうやって、って…」


ああ…そうだ、私は悪い夢を見ているんだった。

早く目を覚まさなくちゃいけなくて…。


それを思い出すと少し冷静になって、私は目の前にいる男の子をやっとちゃんと見た。

暗くてよく分からないけど、茶髪で、私と同じぐらいの年頃で、半袖で…何か細長い物を持ってる?

駄目だ、よく見えない。


私は様子見を諦めると、「分からない」と質問に答えた。


「私、変な夢を見てるんだと思うんです。早く起きたいけど、どうしたらいいか分からなくて…」

「……夢ぇ?」


私の言葉に、男の子は見るからに「はい?」って顔をした。

私が言ってる事は確かに変だと思うけど、これはどうせ夢だからって思うと、たかが夢の住人にどう思われようと気にならなかった。


「この夢から覚めるにはどうしたらいいか、ご存知ですか…?」

「う、うーん…夢かぁ……」


男の子は苦笑いして頭を掻いたけど、すぐにキョロキョロと周りを見る。


「…おっ」


そして向こうに何かを見つけたように指を差す。


「それなら、あっちに行けばいいと思うな」

「あっち…?分かるんですか?」

「俺を信じろよ、伊達にこの異界を彷徨ってないんだからさ!」

「え…」


異界を彷徨うなんて、よくもそんな自慢げに言えたものだ。

私が見てる夢のはずなんだけど、随分変な設定の子が出てくるなぁ。


「ほら、行きなって。ここは危ないよ」

「でも…あなたはどうするんですか?」

「俺は…次は向こうに行く。約束があるから」

「…約束?」

「そう」


男の子は軽く頷くと、にっこりと笑って手を振る。


「じゃあ、気を付けろよ」

「はい…ありがとうございます」


お辞儀をしてから歩きだす。

いつの間にか追いかけてくる赤い水はなくなってて、私はホッと安心する。


「さっきの人、誰なんだろう…」


振り返ってみると、そこにはもう誰もいなかった。


「……夢に出てくるのって大体、知ってる人だよね?あんな知り合い、いたかな…」


あんなカッコいい人、きっと忘れないんだけど。

テレビとか雑誌で見たのかな。


首を傾げながらもう一度前を見て歩き出そうとしたとき、私の右足は地面ではなく空気を踏んだ。


「…え?」


真っ暗で分からないけど、どうやらそこは、穴。


「ひ……ッ!?」










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