DZM1
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「いろはっ!?」
お兄ちゃんの声に気付いて顔を上げると、お兄ちゃんが私を見ていないことに気付いた。
私の後ろの上の方を見ている、と思った途端、私の左腕がグイッと後ろに持っていかれた。
「!?」
あまりの力の強さに身体が浮いて、私はまたこのまま引きずられるのかと危惧した瞬間に月が近くなっていた。
「…え?」
何が起こったのかと理解する前に、ザッザッという音と共に変化していく空の風景。
少し横を見るとそこに、宮田さんの顰めっ面があった。
「え!?」
抱き上げられてる。
まさかのお姫様だっこ。
女の子なら誰でも一度は憧れるアレを、まさかこんな人にされることになるなんて思わなかった……。
(――って、違う!突っ込みどころはそこじゃない!)
私は慌ててジタバタと抵抗をし始めた。
「みやっ、宮田さん!やめて…放して下さい!」
「いろは!…おい、お前!!」
お兄ちゃんの声が遠ざかっていく。
こんな泣きまくったボロボロの状態で連行されるのは酷すぎる。
お兄ちゃんに助けを求める視線をいっぱいに投げかけると、宮田さんも肩越しにお兄ちゃんを振り返った。
そしていつもの憮然な態度で、冷静な声で、言い放ったのだ。
「妹さんはしばらく預かります。今の彼女を泣きやませられるのは貴方じゃない。……俺のようだ」
「なっ……」
図星、とまでは行かないだろうが、言い返せなくなってしまったお兄ちゃんはその場で硬直する。
宮田さんはそれを見遣って小さく「フン」と笑うと(…笑ってるんだよね?顔が笑ってないけど)、踵を返して離れへ歩いて行った。
私はもはや抵抗も出来ないまま、恥ずかしいので宮田さんから懸命に顔を逸らすしかなかった。
電気だけが煌々と光る静かなリビングに着くと、宮田さんは私を下ろさないままソファに座り、そのまま私をつぶしてしまわないぐらいの力加減で抱きしめた。
「…みやたさん、」
私にはもう構ってくれないんじゃあ、と思って出した声は、いかにも「泣きました」って感じの鼻声で。
慌てて涙を拭うと、宮田さんがその手を掴んで私の顔から離した。
宮田さんらしくない行動の数々に驚いて何も言えない私を真っ直ぐに見据える目。
宮田さんは私の手首をソファに縫い付けてしまうと口を開いた。
「泣かすつもりはなかったんだ……すみません」
「…っゆるしません」
誰かのためにここまで泣いたのなんて、昔飼ってた犬が死んじゃった時以来なんだから。
「ひどいです!宮田さんは、ひどい…!どうせ私は子どもです!」
混乱しちゃって自分でも何を言ってるのか分からない。
ただとにかく、劣等感だけが私を襲う。
分かってるんです。
分かってるんです。
私は、宮田さんの力には――
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