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奥山いろは

高校/HR教室
十日目/12時39分02秒






「………」

「ちょっと、いろは。ジュース!ジュースこぼれてる!」

「え?うん、いいんじゃない…?」

「良くないわよ!あーもう!りんごくさい!!」


どうやらジュースの紙パックを知らず知らず握りしめてしまっていたみたいだ。

沙織がお昼御飯を中断させて私の手に拭き零れたリンゴジュースを拭き取ってくれた。


「もう、どうしちゃったの?保健室から絆創膏だけ握りしめてフラフラと帰ってきたと思ったら放心しっぱなしでさ」

「うん。フラダンスってすごいよね……」

「今のアンタの方がすごいことになってるっつーの」


沙織がはーっと息を吐いて頬杖を突く。


「宮田さんの消毒、そんなに痛かった?」

「ッ!!」

私より絶対マシだったと思うけど、と沙織が言い終わる前に、私は再び紙パックを握りつぶしてジュースを噴射させていた。


「…やめてよー、さっき体育でかいた汗、折角引いてきたとこなのにまた濡れたじゃーん…」

「ごめん…」


私もりんごシャワーを浴びてようやく思考が戻ってきた。


「今“宮田さん”に反応したよね?何、また何かあったの?」

「何か……うん、すごくあったけどすごくて言えない…」

「………」


顔を赤らめる私を見て、沙織は絶対に勘付いたと思う。

そして次の授業を、沙織は「また傷が痛みだした」と言って休んだのだった。









宮田司郎

高校/保健室
十日目/13時23分14秒






「つかぬ事をお聞きしますが、ズバリ宮田先生、いろはに何したんですか?」


目の前のパイプ椅子に座って、包帯の巻かれた足をブラブラと揺らしながら聞いてきた女子生徒を見て、宮田は用意していたガーゼを引き出しに直した。


「いろは、保健室から帰ってきてからというものの放心し放題で、バスケではコート内で直立。数学で当てられても単元は三角関数なのにピタゴラスがどうのこうの言い出して大変だったんですよ?」

「それが私の責任ですか」

「そうとしか考えられないじゃないっすか!」


女子生徒はじれったそうにバンバンと机を叩いた。


「そもそも何故私が貴女にそんなふうに言われなければならないのか分かりませんが」

「私があの子の友達だからです!ていうか親友です!心の友ですからね!荒井って言うんで、よろしくお願いしますね!」

「…荒井さん」
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