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「どうしていいか、分からないんだ……」
私の手首をつかむ手が、ぎゅっと震えた。
「夢を見なくなったこと。使命が消えたこと。罪すら、消えたこと……不安なんだ……」
「………言わないんじゃなくて、言えなかったんですね」
私は思わず笑って言った。
「言ってくれればいいのにって思ってましたけど、言えないですね」
私は宮田さんの手に、もう片方の手のひらを添えた。
「苦しすぎると、言えないですね。そんなことにも気付けなくて、ごめんなさい」
ソファの横に膝を突いて、宮田さんよりも低くなった視線で宮田さんの手を撫でる。
「………頼みがある」
「…何ですか?」
首を傾げながらも宮田さんの手に促されるように立ち上がった瞬間、身体に宮田さんの腕が回されて、私は宮田さんの方へ倒れこんだ。
「!?…み、みやた、さんっ」
「逃げないでくれ……何かを欲しがったのは、これが初めてなんだ…」
「………!?」
宮田さんに縋りつかれるように抱きしめられて、その声を聞いた途端にどうしてか私の胸が酷く痛んだ。
初めて。
宮田さん、そんなに大きいのに。
私よりずっと長く生きてきたのに、そんな悲しいことを。
私が沈黙を守っていると、宮田さんがそれを破った。
「わかったんだ…。俺はこの世界の存在ではなかった…。死んだはずだった。あの時、炎に、焼かれて……」
追憶。
「それが、ここにいる。気が付いたら君がそこにいたんだ。俺は………」
宮田さんと私の目が合う。
「俺はこことは違う日本で死んで、この日本に来た。その事実を…」
言えないですよね。
そんな信じられない話。
私だってびっくりしてます、宮田さん。
でも私は笑った。
「宮田さん、私が信じます。宮田さんがやっと話してくれたことだから、宮田さんのことだから、私は信じてます」
「本当に…」
「信じますよ………信じたいんです。宮田さんはここにいます。否定しません。否定したくありません。宮田さんは、ここにいるんです」
何て言っていいのか分からない。
分からないけど、
「もう苦しまないで下さい…。宮田さんの昔も、今も。私は知らないことだらけかも知れないけど、それが宮田さんの全てであることは確かです。私、…宮田さんに、ここにいてほしい」
きっと宮田さんは、すごく苦しい思いをしてなんだと思う。
それこそ、物心がつくときぐらいから、ずっと、ずっと、それが当たり前だってぐらいに、辛いものを背負ってたんだ。
それが急に消えたこと。
解放されたこと。
自分の存在が狂ったこと。
宮田さんの私を抱きしめる腕の力が更に強くなった。
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