DZM1

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俺の命と引き換えに、今までサイレンの誘惑に苦しみ続けた彼らに救いを――。





意識が沈むように落ちていく。

視界がブラックアウトしてしまう前に諦めて目を閉じ、俺は暗闇に全てを任せた。










奥山いろは
東京23区/コンビニ周辺
前日/23時59分35秒





「うーん…種類はこれで良かったのかなぁ…お酒のことなんてまだ分かんないよ…」


ビニール袋の中でガチャガチャと揺れる瓶を覗き込みながら溜息混じりに呟いた。


ウチの家族は未成年の私を除いてみんな酒好き。

祖母、父、母、兄、姉、私なんだけど…さっきお酒が切れたとか言って、私は見事にみんなにパシられた。

未成年だからって言っても「二十歳って言っときゃバレないバレない」とか言って…。

まあ実際、こうして買えちゃったわけなんですけども。


さっさと帰ろうと思って、コンビニの明るい光に背を向けて歩き出し、コンビニの裏の道に差し掛かったときだった。


「…?」


コンビニ裏の換気扇だのが置いてあるところに、黒い大きなモノが落ちている。

粗大ゴミ?…にしては、平べったくて、でも板とかじゃないの。

あのね、


「…人間っぽい…」


…んだよね。


近付けば近付くほどに人間だった。

私は遠目から覗き込むように見下ろして、おろおろするばかりだ。


(ど、どうしよう、人だ!)


黒髪に黒服の男性がまるで行き倒れのようにうつ伏せに倒れている。

黒くてヒラヒラした、なんだか変な格好をしてる。

…何か、宗教的なアレかな?


(どうしたんだろう…)


よく見ると、暗闇の中で微かに息をしている。

寝てるか気絶してるかだとは思うけど…。


私は意を決して、少し遠目の場所から遠慮がちに声をかけた。


「あの〜…」


………。


「あの〜〜〜…」


…駄目。


この状況に随分慣れた私は、そっと近付いて肩に手をかけることに成功した。


「あの、大丈夫ですかー?」


声をかけてから、もし怖い人だったらどうしよう…なんて後悔したけどもう遅い。

少し揺すると、呻き声が聞こえた。


(お、起きた…!)


目の前でのそりと起き上がり、頭が痛そうに額を押さえている男性。


「大丈夫ですか?」


小さく声をかけると、彼はやっとこちらを振り向いた。



真面目そうな、短めにしてある黒い髪。

端正な顔立ちは物凄く…気分が悪そうに顰められていた。

何だかそれすらも様になる男で、私は思わずボーッと彼の顔をガン見してしまった。


我に返ると、男性が抑揚のない声で訊いた。


「お前は誰だ」


うっ、怖い人…!


「こ、この近所に住んでる者です…。コンビニの帰りに見かけたんですけど…」

「…コンビニ?」


彼は目の前の建物を見て、換気扇だのの機械が起動している音を聞いて、何となく悟ったようだった。

しかしすぐにまた顔を顰めて頭を押さえる。


「何故だ…俺は何故こんな所に…?まさかこれも…悪夢の一部なのか…確かに俺は、あの後…」

「…あの?」

「!………いや、気にするな」

「でも…具合が悪そうですよ。大丈夫ですか?」

「…ここが何処かだけ教えてくれ」


男性は考えながらポツリとその言葉だけを落とした。


「ここですか?えっと…東京の、23区です」



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