ボカロ日和

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ある夜、曽良は来週提出の課題を片付けるためにパソコンを開きつつシャーペンを走らせていた。

寝る少し前、作業用に音楽を聴きながら静かに字を書くこの時間。

課題は面倒だが、個人的にはこの平和な時間が嫌いではなかった。


しかしそれを、オッサンの声が打ち破った。


「あんいんすとー!あーんいんすとー!…曽良くん、曽良くん!どうかな?私上手?松尾歌うま男?」


馬鹿の一つ覚えのようにこの前教えた歌のサビをひたすら熱唱するオッサンロイドがあんまり五月蝿いので、曽良はついにマウスを引っ掴んでマウスカーソルを叩き付けてやった。


「課題の邪魔です、耳障りな歌を歌わないで下さい」

「コエムシ!!!」


なんかそんな奴もいたな的な悲鳴を上げながらデスクトップに崩れ落ちるオッサンロイド。

曽良は溜め息を吐いた。


「芭蕉さん、少しは大人しくして下さい。お仕置きしますよ?」

「もうしてるよ!言うより先にやっちゃってるよ!」

「ちゃんと言いましたよ、芭蕉さんの回路が錆びてるんじゃないですか?」

「失礼な!松尾は敏感なんだぞ!音声だってバリバリに感知するんだから!」


「今からそれを証明してやろうか!よーしじゃあ…」とか何か言っているのを遮断するように一発マウスカーソルの先端で腰を突いてやると「ヒヒィン」とか言いながら再び崩れ落ちた。

あまりの面白さにもう一回やりたくなるのを抑えながら、曽良はしげしげと芭蕉を眺める。


「そもそも芭蕉さんは年が行き過ぎなんですよ。おかげで曲に勢いを出しにくいですし、性能は悪いし見た目も残念な感じで…」

「残念って言うなアァ!亀の甲より年の功って言うだろー!?」

「機械は新しい方がいいと思いますけど」

「リアルに正論言うなよチクショーー!!!」


曽良は課題を片付けると席を立つ。


「今日はこれで終わりです。シャットダウンしますよ、芭蕉さん」

「あッ!言い逃げする気か曽良くん!卑怯だぞ!正々堂々かかって――」

「その憎たらしい口を閉じろ老いぼれめ!!」

「ギャアアアァァ!!」


顔面にマウスカーソルを光の速さで突っ込ませつつさっさとスタートメニューを開く。

シャットダウン作業をしていると、またしても見事にデスクトップ画面に崩れ落ちながら芭蕉が呻いた。


「こ…これぐらいじゃ私はへこたれないぞマス男め…!」

「まだ息の根があったんですか」

「止まってたまるか!見てろよ!明日こそは必ず曽良くんをギャフンと言わせてやるからな!!」

「はいはいお休みなさい芭蕉さん」

「流すなー!怖じ気づいてパソコン付けないとかだったら松尾怒って泣いちゃうか――」

「お休みなさい!!!」

「ごめんお休み曽良くん!!」


めちゃくちゃ低い声で叫ぶと芭蕉は慌てて引っ込んでいった。

そしてパソコンの電源は落ち、曽良は何事もなかったかのようにベッドに入った。










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