ボカロ日和
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とある休日のこと。
「最近ずっと構ってなかったし……たまには大王の相手でもしてやるか」
ふと思い付いた鬼男は、ノートパソコンを出してきて電源を入れた。
デスクトップが立ち上がると、鬼男はボーカロイドソフトのアイコンをダブルクリックする。
…が、何故か閻魔が現れない。
「あ?」
鬼男は小さく首を傾げながら編集画面のウィンドウをドラッグで退かしたりして閻魔を捜した。
「だいおー。だいおー?何処ですかー?」
しばらくそうやっていると、ポーンという音と共にデスクトップの端から閻魔がチョンと顔を出した。
「あ、鬼男くん!!」
こちらを見上げる閻魔の頬は紅潮していて、相変わらず……制作者側の罠ということで、可愛らしいと思う。
「大王、そんな所にいたんですか?久しぶりに構ってあげますから出てきて下さいよ」
「え?あ、うん!でも、ちょっと待って!」
閻魔は嬉しそうに笑うのだが、顔を出しているだけで一向に全身を現さない。
「…何してんですか?」
「いや、今ちょっと…着替えの途中で」
「着替え?ボーカロイドでもそんなのするんですか?」
鬼男が驚いていると、閻魔はまたウィンドウ端に隠れ、「これで…良し!」と呟いてまた顔だけ出した。
「あ、あの…鬼男くん」
「…何ですか?」
オッサンのくせにデスクトップの端に隠れてモジモジしている閻魔。
正直少し気持ち悪い。
「あのさ、俺、最初に出てきたとき、こんなんじゃ出版されたくないって言ってたじゃん?」
「ああ…そう言えば」
あれはかなりインパクトがあったので覚えている。
「それなんだけど、俺が不満だったのは衣装なんだよね。だから俺、ちょっと色々用意して着替えてみたんだけど…見てもらえる?」
「…はあ、まあ」
何だ、この…付き合い始めたばかりの彼氏にちょっと気合い入れてお洒落してみた姿を御披露目する前みたいなノリは。
終始顔を赤くして俯いてみたり上目遣いにこっちを見つめたりするのをやめてほしいものだ。
「ていうかいつまで引きずるんですか!どうでもいいから早く見せなさい!!」
「えぇッ!?う、うん」
突然怒鳴られてビクッと震え上がった閻魔だが、決意したように息を吸って。
「え、えぇーいどうだ鬼男くん!!閻魔7つ道具のうちの一つだーー!!!」
バッと勢い良くデスクトップ中央に出てきた閻魔を鬼男は見たわけだが、閻魔の衣装が何であるのかを認識するのに若干の時間を要していた。
コツッと音を立てるローファー。
剥き出しになった白い足。
ひらりと翻るスカート。
ちらりと見え隠れする腹に赤いスカーフ。
そう、紛れもなくコレは――
「なななななんでよりによってセーラー服とか着てんだお前は変態か!!?」
「だってほら、セーラー可愛いからつい……似合う?」
「似合う似合わないの問題じゃねえよ!犯罪だぞ!!お前は俺の目を潰す気か!!?」
「え、ええぇ!?そんなに気持ち悪い!?」
閻魔はショックを受けたようにフラリとよろめく。
そしてその拍子に揺れるスカーフやらスカートやらに鬼男は「うっ」となる。
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