ボカロ日和

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ある休日の朝のこと、香り湯気立つコーヒーカップを片手にパソコンの前に座った曽良が、デスクトップにちょこんと立った芭蕉に告白した。


「芭蕉さん、貴方に歌ってもらう曲が決まりました」

「えっ、もう!?」


芭蕉が喜びと驚きがない交ぜになった声で聞き返すと、曽良はコックリと頷いた。










芭蕉が曽良のパソコンにインストールされてから二日、曽良は早くもマスターとしての役割を果たそうとしていた。


「ねえ曽良くん、本当に?私、もう歌えるの?」


芭蕉がどぎまぎしながら訊くと、曽良はまた頷いて「本当です」と答える。

途端にパァッと笑顔になった芭蕉がピョンピョン飛び跳ねた。


「な、何々?松尾何でも歌うよ!張り切って歌っちゃう!」


見た目からは想像もつかないほど元気に大はしゃぎしながら訊く。

その様は見る人が見れば言ってしまうとうざいのに、曽良は珍しく顔色一つ変えない様子で曲名を告げた。


「アンインストールです」

「あぁ、ぼ●らののオープニングかぁ!アレはいいよね、見たことないけど私のメモリには組み込まれてるからソレ検索して泣いちゃったことあるんだよなぁ。任せて曽良くん、松尾頑張るから…って、なん…でやねーーーん!!!」

「たかがノリツッコミに尺を取りすぎです」

「関係ないよ!そんな事はどうでもいいんだよ!それより私が初めて歌う曲がアンインストールって何なのソレ!どういう了見!?なんかすごく嫌な予感するじゃないか!!」


芭蕉がデスクトップの床をバシバシ叩きながら訴える。


「怒ったって無駄ですよ。もう決まりました」

「そっ、曽良くん酷いよっ…インストールして二日でもうアンインストールフラグ立てるなんて…!」

「泣いても無駄です。歌わせます。今日はオフなんで一日使って作業しますから」


言いながらマウスに手を伸ばす曽良を見た芭蕉は、ハッとしてデスクトップの端にあるボーカロイド編集ソフトアイコンを取り上げる。

そして曽良が操るマウスカーソルからひたすら逃げ始めた。

曽良は当然それを追い掛ける。


「アイコン持って逃げないで下さいよ。クリック出来ないじゃないですか」

「だめ!クリックさせたらアンインストール歌わされるもん!絶対に嫌ー!」

「芭蕉さん…言うことを聞いて下さい」

「いや!いや!絶対にいやーーーッ!!」

「主には絶対に服従しろ!!」

「ゴッファア!!?」


ついに声を張り上げた曽良がゴミ箱アイコンをドラッグして芭蕉に投げつけた。

芭蕉は何メガバイトもの不要ファイルが突っ込まれた重たいゴミ箱をもろに腰に受け、アイコンを放り出して倒れ込む。

その隙に曽良は素早くボーカロイドソフトアイコンを元の位置に戻してダブルクリックした。





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