ボカロ日和

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結局コンビニに寄る余裕もなく帰宅した閻魔。

ドサリと鞄を置くと、奥の部屋のパソコンへ一直線だった。

パッケージを開けると表裏を見、欠陥やらはないかと確認した後にドライブに挿入、インストール作業を進めていった。

インストール完了のポップアップが表示されると、デスクトップ上にアプリケーションのショートカットアイコンも現れた。


「……ふう。これでよし」


実を言うと、ボーカロイドは知っている。

少し前のことになるが、動画サイトで見たりもしていた。

それを何故突然見知らぬ老婆から託されてしまったのかはよく分からないが、この手の製品には興味があったので丁度いい。


「でも、獄音鬼男なんて初めて見たなー。しばらく見ない間に増えたんだな」


そして閻魔はカチカチとアイコンをクリックする。

するとデスクトップ上に現れたのは、作業画面と――


「………ん?」

「…あ。初めまして、マスター。僕はナンバー06、獄音鬼男です」

「え………ええぇ!?」


上から落ちてきて、くるんと一度回って着地。

そして立ち上がったキャラクターがこちらを見上げ、丁寧にお辞儀をして見せたのだ。

その見た目はソフトのパッケージと全く同じである。


閻魔は思わず説明書を引っ張り出した。


「な、何コレすご……っ、ボーカロイドって会話できるの!?」


説明書の何処にも『ボーカロイドがデスクトップに表示されて動いたり喋ったりします』とは書かれていない。


「……常識ってこと…?」


でもボーカロイドが喋るなんて聞いたことがない。

もしそうなら世の初音ミクやらKAITOやらは、まさに“もっと評価されるべき”だ。


(……喋る初音ミクか…)


「かわいいだろうなぁ…」

「マスター…顔がニヤけてます」


鬼男の注意に、閻魔は慌てて意識を戻す。


「それにしても変わったボーカロイドだよなあ鬼男くん…。そのツノ何?もしやアレ?『ダーリン、お仕置きだっちゃー!』とかの…」

「そっ、そんなわけないでしょう!真似すんな気持ち悪い!これは獄卒の鬼の角です」

「獄卒…それはまぁ…」


閻魔と獄卒。

何というか、随分な巡り合わせに閻魔は苦笑いしたが、気を取り直したように頭を振る。


「鬼男くん、俺ね、閻魔だから」

「閻魔…?」

「そうそう、だからさぁ」


法廷では裁判長と呼ばれている。

…が、閻魔という名前もあって、前々から呼ばれてみたいと思っていたのだ。


「大王って呼んで?」

「だいおう……ですか?」

「そう♪」

「マスターではなく、大王と」

「そうだ。鬼男くんだけに許された呼び方だぞ!嬉しい?」

「別に嬉しくなんかはないです」

「ツンデレ?」

「素です」


この先が少し不安になってきた。


「…えーっと、鬼男くんはボーカロイドだから当然歌を歌うんだよな?」


こっくり頷く鬼男がこけしみたいで可愛らしい。

閻魔はその様子にニコニコ…むしろニヤニヤしながら提案した。


「じゃあさ、いきなりオリジナル曲に挑戦するのは難しいし…とりあえず きし●んとか さくらん●キッスとかからカバーしてみるのはどうかな?」

「はぁ!?なんでそっち系列の曲ばっかなんですか!?」

「だって…可愛いし…」

「この変態!!もっと他にないんですか!!」

「へ、変態だと…!?」


どうやらお気に召さないらしいので、閻魔は うーんと考える。


「あ!じゃあ東方とか…」

「えぇッ!その領域侵すんですか!?ちょ…ちょっと僕には…そんな度胸はありませんよ…」

「ひれ伏せ愚民どもとかボーダーオブエク●タシーとかだめ…?」

「…アンタMなんですか?変態ですね…」


悉く罵られ弾かれる意見に、閻魔は口を尖らせていじけるしかなかった。


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