ボカロ日和
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【06・獄音鬼男】
「判決を言い渡す」
カンカン、と甲高い音の後に、法廷に響き渡る冷えた低音。
一同に緊張が走り、固唾を飲んで見守る傍聴席の人々。
「有罪、無期懲役の刑に処す!」
閻魔は赤にも見える鋭い瞳を光らせた。
「はあぁぁ〜〜疲れた…ていうかフォーエバーしたい!」
先代の裁判長から引き継ぎ、長年争い続けてきた件について、ようやく判決を下した。
肩の荷が一つ降りた閻魔は、スーツの上に羽織ったコートのポケットに携帯を放り込み、人の少ない夜道をダラダラと歩く。
「帰ったらどうしようかな〜、たまには一人で飲むってのも…」
晩酌の買い出しにコンビニでも寄るかと思い当たったとき、道の脇から小さな声がした。
「?」
閻魔は思わず立ち止まり、電気の消えた建物と建物の間の細い通路を覗く。
そこには紫のクロスを掛けた小さな机に座る老婆がいた。
(何この人怖ッ!?)
こちらを見てちょいちょいと手招きする彼女からは ただならぬオーラが出ている。
「お、俺ですかっ…?」
手相を見るとか、占いとかそんな類に違いないと自分を励ましつつ近寄る。
「お婆さん、占い師か何かか…?」
閻魔が来ると、老婆はニタリと笑って嗄れた声で「手を」と言う。
ああ手相かと ほっとして左手を出した閻魔の手にいきなりピトリと冷たい感触がした。
「ぎゃあああぁぁ!?おば、おばあちゃんッ!!」
半狂乱で叫ぶ今の彼に、今を時めくカリスマ裁判長の風格など見る影もない。
「なッなに、な、なん!?」
「呼んでたよ」
「………は?」
閻魔は手を見る。
「……これは…ソフ、ト?」
老婆は静かに告げる。
「呼び合っていたよ」
「呼び合って…?」
ソフトのパッケージには『06・獄音鬼男』の文字。
そして、短い髪から二本の小さな角を生やし、インカムを付けて昔の役人服を着たキャラクターが描かれている。
よく見ると、端っこに小さく『VOCALOID』とあった。
「…これって」
閻魔は更なる説明を求めてパッケージから顔を上げた。
…が。
「……あれ?」
そこには老婆も机も、もう何もなかったのだった。
「怖ーーッ!!何これホラー!?」
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