ボカロ日和

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【04・河音曽良】



首都圏にしては静かな都会の端っこ。

決して大きいわけではないが情緒溢れる日本家屋。

ここに俳句教室を構える松尾芭蕉は、庭のよく見える部屋の畳に一人座っていた。

太陽の光がさんさんと降り注ぎ、爽やかな午後の風が屋敷をすり抜けていく。

芭蕉には、困ったことがある。


「新開発のソフトって言われても…パソコン、出来ないんだけどなぁ…」


遡ること一時間。

墨や食材を求めて近所の商店街に行ったら、福引き券なんてものを貰ってしまった。

最近あまり見なくなったソレに、芭蕉は心を踊らせる。

買い物が終わり、道の一郭に福引きコーナーを見つけると、丁度前の客が電子辞書だか何だかを受け取って帰るところだった。


(結構すごいものが貰えるんだなぁ……うわ〜、松尾ズキズキ…間違えた、ドキドキしてきた)


芭蕉は買い物袋を脇に抱えて台の向こうの若い男に話しかける。


「あの〜…券もらったんだけど…」

「はい、いらっしゃい!四枚ですね、四回 回して下さい!」


(よし、回すぞ…!ガラガラ回しちゃうぞ!)


そう言えば福引きを懐かしいとか思うわりにはこの機械の正式名称を知らない。
(え、ガラガラでしょ?)


一回目。

ティッシュ。

二回目。

鍋掴み。

三回目。

ティッシュ。


「ち、チクショー!今朝のお茶は茶柱立ったし、松尾ラッキーだと思うんだけどなぁ…!一等は温泉旅行だろ?ええーい、絶対当ててやる〜!松尾ガラガラサイクロンおりゃあああぁぁ!!」


コロコロ…


「……あお?」


コロンと飛び出した青い玉に、芭蕉は呆然として当たり表を見た。

青なんて何処にもない。


「な、何コレ…?」

「当てちゃいましたねお客さん…」

「ビクッ!な、なに!?」


思わず口で「ビクッ」とか言いながら店員のただならぬ雰囲気に後ずさる。


「これはねお客さん…数百ある玉のうちの、たった一つの青なんですよ…。まさかこうも早く当たってしまうとはね…」

「は…はぁ…(もしかして何かヤバいの当てちゃった…!?)」


ビクビクしながら買い物袋を握りしめる芭蕉。

一体どんな恐ろしいことを言われるのかと思ったとき、その目の前にズイッと何かが差し出され、その奥の若者の顔が晴れやかに笑った。


「おめでとうございます!特賞ですよお客さん!!」

「へ……と、特賞!?」


芭蕉はその四角い物体を受け取り唖然とする。


「何コレ…?かわ…おと、そら?」

「かわねそらです!今話題沸騰中のボーカロイドの隠れた新作、世に一つしかないレアもレア!」

「ボーカロイド?って何?」

「やだなぁお客さん!歌を歌うアレですよ!まさか要らないなんてそんな冗談…本当すごいんですよ?それ!」

「そ…そうなんだ…」


理解しがたいテンションになった男性に、流石の芭蕉もたじろぐ。


「パソコンにインストールして下さい、そしたらあとは簡単に済みますから!本当ありがとうございますねーお客さん!」

「はぁ…ど、どう致しまして…?」





…そして今に至る。


「…なんで感謝されたの?」


解せない。


一応パソコンもあるにはあるのだが、怖くて滅多に触れない。


「特賞だもんなぁ…彼、色々すごいこと言ってたし」

芭蕉は見慣れないソフトのケースを目の前に、30分ほど考えた。

そしてその末…、


「ええーい、入れたれぇぇぇ!!」


怪しい食べ物も口に入れてみちゃう、それが松尾クオリティ。






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