ボカロ日和

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【02・小野音妹子】





天皇の息子。

誰もが羨む気高き地位。


…そのわりには あまり威厳がない男、聖徳太子。


「はぁ…馬子さんめ、またややこしい問題押し付けてきやがって全く…!」


いつものようにボーっと一日を過ごそうと思っていたら、蘇我馬子に面倒臭そうな書類を渡されそうになり、すんでのところで逃げ出して今に至る。

公道なんか堂々と歩けば秒で捕獲されることは分かっているので路地裏を歩く太子。

しかし路地裏は、暗い。

電化製品や雑誌、生ゴミが不法に棄てられているのを見ると、太子は思わず顔を顰めて鼻を押さえ、通り過ぎようとしたが――


「カァッ!!」

「ひッ?…オアマァッ!」


生ゴミを漁るカラスの威嚇に驚いた太子は躓いて転んでしまった。

カラスは飛んでいき、太子は一人、派手に打ち付けた膝小僧を擦りながら起き上がる。


「な、何だよ この踏んだり蹴ったり!もう嫌…!!……ん?」


足元に何かが落ちている。


「………ソフト?これに躓いたのか」


拾い上げると、そこには『02・小野音妹子』のロゴ。

短い茶髪のキャラクターが長袖長ズボンの赤いジャージに何故かピン付きネクタイを締め、白い耳当てをアレンジして作られたインカム付きのヘッドホンを付けている。

太子はそれをじっくり眺めた後、こてんと首を傾げた。


「…エロゲ?」


これが俗に言うそういうものなのだろうかと太子は思わず顔を赤らめてしまったが、すぐに『VOCALOID』の文字を見つける。


「ああ、ボーカロイドかぁ!…あ、でもボーカロイドって何だっけ?どっかで聞いたことあるような……」


懸命に思い出す。



『――太子、最近私は、魚料理を見るとやけに物悲しくなることに気が付いたんだ……』



「あっ間違えた。竹中さんを思い出しちゃった」


太子はブンブンと首を振る。

竹中は太子の古くからの親友で、外国の血でも入っているのか、金髪で青い目をしている。

因みに彼の下の名前は、彼と相当親しい太子すら知らないというミステリアスっぷりだ。

太子には事あるごとに彼のことを思い出してしまうよく分からない癖があり、今回もまたやったかと首を振って掻き消そうとしたのだが。


「……いや待てよ?今回はそうだ、竹中さんがボーカロイドのこと言ってたんだ!」


二人で話をしていたら突然竹中に魚料理を見ていると悲しくなったり身の危険を感じたりすると相談されたので、しばらく考えた後、「竹中さんの前世が魚だったんじゃない?」と答えた。(半分正解している)

その後、悩みが解決してスッキリした竹中から「そう言えば」とボーカロイドの話を聞いたのだった。

唄を歌うプログラムがあるらしい、と。


「………」










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