ボカロ日和
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【01・聖音太子】
「ホゲエエエエーーー!!な…何コレ……しょ、しょうね、たいし…?」
小野妹子。
現役高校生。
「面白い」と何度も友達が勧めてくるものだから、つい買ってしまったボーカロイドという音楽ソフト。
何でもシリーズになっていて、その友達は初音ミクというソフトを使っているらしい。
それならばと適当に選んだのが始音KAITOだった。
荷物はすぐに家に届いた。
初めて触れる物に些か緊張しながら包装を取り除き、妹子が目にしたものは…。
「青いけど…青いけどジャージ着た ただのオッサンだ…!!」
妹子は混乱して部屋を見渡すが、生憎家族は外出中。
妹子は今、この家に一人きりなのだ。
「どうしよう…会社に電話した方がいいよな……」
妹子は電話の子機と聖音太子のソフトを手におろおろするばかり。
「………聖音太子、か…」
改めて見たパッケージには、01・聖音太子のロゴ。
前髪をアップにした外跳ねの黒髪、青ジャージには何故かピン付きのネクタイが締められ、ボーカロイドに共通して取り付けられているインカム、そして頭にはこれまた何故か昔のお偉いさまが被るような紫の冠を載っけていた。
「………まさかとは思うけど、コレって聖徳太子ってことじゃないよな…?」
名前は似ているが、まさかこんなジャージのオッサンが。
妹子は困り果てたが、自分の小野妹子という名前のこともあって、このソフトに妙な親近感を抱いてしまっていた。
「す、少し起動するぐらいなら…」
自分は一体何をしているんだろうと自己嫌悪に陥りながら、妹子はパソコンのドライブにディスクを挿入するのだった。
「…あー、あれ?えっと…ここで次にこうして……んん?分からない…っ!」
ディスクをセットしてから約10分。
妹子は取説を片手に未だインストールに手間取っていた。
正直なところパソコンはあまり得意ではない。
実を言うと、今回ボーカロイドを買ったの理由はここにもある。
遊び感覚でもいいからパソコンに慣れればと思ったこともあっての購入だったのだ。
「ここで『次へ』で………やった!やっとインストールが始まった…」
妹子は脱力して取説を放り出すと机に突っ伏した。
パソコンがインストールを開始して唸る。
妹子はボーっとディスプレイを眺めていた。
一体どうなるのかと無表情ながらに考えていた妹子だが、ディスプレイに薄く何かが映るのが見えてくると、妹子の顔は急に険しくなっていった。
デスクトップにうっすらと何かが現れる。
その姿を確認して、妹子は口をポカンと開いた。
パッケージに載っていたままのオッサンが、デスクトップの比較的下の方に配置されたデータフォルダのアイコンに気だるげに腰を掛けて口を動かしている。
「皆にこそこそ笑われるぞお前〜〜〜ギリギリ〜〜じゃないと僕だめなんだよ〜〜」
(何か歌ってるーーーーーーー!!!!)
しかも何故かやけに低い位置にギターをぶら下げている。
妹子は思わずディスプレイの電源に伸びた指を慌てて押えた。
ものすごい量の汗を流しながらそいつを見つめていたが、彼がようやく妹子に気付いたのはだいぶ経ってからのことだった。
何気なくこちらに視線を移した青ジャージが「うおぉ!?」と目を見開いて妹子を凝視した。
「だだだ誰、お前!?」
「こっちの台詞だ!アンタこそ誰だよ!!」
ていうかこのボーカロイド喋ってる!?
ボーカロイドが喋るなんて、僕は聞いてない…!!
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