ボカロ日和

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――あれ?

何だろう、ずっと真っ暗で静かだったのに…なんか急にうるさくない?

しかもちょっと、眩しくない?

もう、せっかく松尾がゆっくり寝てるのにさー。

…って、ちょ、痛い。

痛い、痛い!

なんで!?

なんでか急に露骨にお尻イッタイ!!


「ホババァ!?」

「あ、動いた」

「お尻痛いよ!叩かんといてー!!!」


びっくりして飛び起きると、視界に知らない男の子の顔がどアップで飛び込んできた。

痛むお尻を擦りながら後ずさると、やっと周りの様子も見えてきた。


「………デスクトップ?」


そうだ。

コレ、多分デスクトップだよね?

見たことないけど情報が組み込まれてるから知ってるコレ。

すごい、松尾って天才!


目の前の男の子も小さく頷いた。


「そうですよ。アンタ、僕にインストールされたんです」

「い、いんすと…?何だっけ…あ、ああ!インストールね!」


上手く言葉で説明できないけど何となく分かるから大丈夫。

うん大丈夫、松尾は賢いから!!

…でも、待って?

今この子、私をインストールしたって言ったよね?

え?つまり、それって……


「…わ、うわあああああぁぁ!!」

「何ですか煩い」

「ぁ痛ッ!?お尻イタッ!!ちょ、待って!?私、デスクトップにいるよね!?ディスプレイの向こうから君、どうやって攻撃してるわけ!?」

「マウスカーソルですけど」

「ええええええぇぇ」


恐る恐る振り返ると、確かにそこに白い矢印のマウスカーソルがドーンと構えていた。

つまりこの子はさっきから私の形がよくてナイスなお尻をこのマウスカーソルでクリックして殴ってると…。


「酷いな君……私、マウスカーソルがこんな怖いものだなんて知らなかったよ…?」

「そうですね。僕も今ほどマウスカーソルの存在に有難みを感じた事はないです」


無表情で酷いことをサラッと言っちゃうこの男の子を目の前にして、私の気分はすっかり落ち込んでいた。

長い溜息を吐くと、デスクトップにへたり込む。


「何ですか、いい中年が鬱陶しい…」

「ほ、本当に酷いな君!…溜息を吐きたくもなるよ、こんな怖そうな子が私のマスターになるなんて…」

「………ああ、」


そこで男の子は思い出したように瞬きをした。


「僕、アンタみたいなジジイを買った覚えはないんですが…松音芭蕉って何なんですか?」

「えぇッ!?しかも買った覚えないって…!ま、松尾いらない子…!?」

「松音でしょう?」

「い、いいの!松音だけど松尾なの!僕とか私とか俺とかそういう類いだよ!!」

「………」

「憐れむような視線をやめろオオオォォ!!」


何なんだこの子!

失礼にもほどがある!!


私はデスクトップに堂々と座り込むと、男の子に向けた人差し指をブンブンと下に向けた。


「座れ!!」

「座ってますけど」

「す、座っててもね!君の方が何倍も何十倍も大きいから見下ろされてて嫌なんだよ!いっそ跪け!!」

「ディスプレイごと燃やしますよ?」

「ひっ!?」


目がマジだよ…!!

暴力的すぎるよ、もうヤだこの子…!


「君、本当は何が欲しかったの?」

「鏡音リンとレンですよ。知ってますか?」

「あー、うん、知ってるよ。黄色い子でしょ?」


歌を歌うソフトだよね?

一応、他のボーカロイドの情報は全部入ってる。


「それなら松尾も同じだよ?ボーカロイドだから」

「アンタみたいな枯れたジジイがですか。大体ああいうものは“萌え”とかいうものを基準にデザインされるもんでしょう。ジジ専対象ですか?」

「ひっどいことばっかり言うなぁ君は!!松尾だってまだまだ行けるわい!!」


ちょっと泣きたくなってきたよ!?


「ボーカロイドって全部アンタみたいに喋るんですか?初耳なんですが」

「え?」


その言葉に私はびっくりした。


「…そう言えばそうだね…。私、なんでお話しできるんだろう?」

「………」


また呆れたような視線が突き刺さる。

くそぅ、こんなこと松尾にだって予想できなかったんだもん!


「えっとさ、ボーカロイドは基本的にただのソフトだから…私みたいにお話とか出来ないはずなんだけど…」

「イレギュラーですか」

「えっと……そうみたい…」


アハハと乾いた笑いを零しながら言うと、ディスプレイの向こうの男の子は盛大に溜息を吐いた。

なんかものすごくムカつく態度だ。

この子、黙ってればカッコいいのに、性格が酷すぎやしない!?


「大体、君もリンちゃんみたいな可愛いボーカロイドが良かったならなんで私のことインストールしたりしたの!?」

「ああ、ディスクをへし折るかインストールするか迷いました」

「ちょ、おまっ…インストールしてくれてありがとう!!」


完全にこの子のペースだ…orz



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