SIRENSHORT

□Halloween
1ページ/2ページ






双子とハロウィン





田舎に住んでいようが山奥に住んでいようが、日本にいる限り、みんな平等に10月31日はやってくる。

そう、ハロウィンだ。

いっぱいお菓子が貰えるイベント!

いっぱいイタズラできちゃうイベント!

このワクワクを抑えられようか!?

羽生蛇村でも思いっきり楽しもうよ!

日本には浸透してないからってスルーするとか寂しすぎるよ!


「そんなわけで宮田先生、求導師様!ハッピーハロウィン!!」

「はあ、ハッピーハロウィン」


宮田さんは棒読みながらも適当に返してくれたが、その隣に立っている牧野さんは首を傾げた。


「法被……波浪……?海が荒れないよう祈る漁師の祭りですか?」

「全く違います」


むしろハッピと波浪だけでよくそこまで考えたな。

ハロウィンに漁師が揃いも揃って、ハッピを着て海岸線で踊り狂ってたらもうただのホラーだろ。


「求導師様、ハロウィンっていうのはね、子どもがお化けやモンスターの仮装をして近所の家を回り、お菓子をねだる行事だよ」

「……物乞い祭りですか?」

「恐喝祭りとも言いますよ」

「言わねえよ!双子揃いも揃って発想が恐ろしいわ!!」


求導師様なんか、職業柄なのか、無意識に胸の前で手を組んでいる。


「も、物乞いしなければならないほど恵まれない子ども達と、純粋無垢故余計に恐ろしい子ども達に脅かされる民家に救いを……」

「祈っても意味ないから。そんな戦中戦後みたいなシビアなイベントじゃないから!」


求導師様はハロウィンの解釈について迷走中だが、宮田先生はハロウィンのことを知っているようだった。


「よし、宮田先生!ハロウィンはそんな怖いイベントじゃないって教えてあげて!」

「はあ……まあ、いろはが言うなら仕方ないな。神代と教会といろはは絶対だから」


嫌味か。

その溜め息をやめろ。


「牧野さん、ハロウィンっていうのは国民の現実逃避ですよ」

「ちょ、宮田先生何言ってんの?テスト前に部屋を掃除したくなる現象について説明しろとか誰も言ってないよ?」

「間違ってないだろ。いいですか、ハロウィンっていうのは、正月のための料理の用意や親戚の召集や年賀状や大掃除を忘れたい奴らが考え出した集団現実逃避なんです」

「……その発想は無かった」


“どや”とでも言いたげに腕を組んで立っている宮田先生の言葉に衝撃を受けた。

なるほど、そういうことか!


「分かったよ先生!今からお正月のことばっか考えるとかしんどいよ!やめようよ!いや、でもお年玉はよろしくね!そして今はお菓子をよろしくね!そう言うことか!分かる!分かるぞ!この世の中の仕組みが!!」


あ、求導師様がポカンとしてる。

やめよう、このテンションやめよう。


「とにかくハロウィンを満喫するためには、お菓子を貰う側かあげる側にならなきゃ駄目なんだよ。二人とも大人だからあげる側かも知れないけど、それだと面白くないからまずは貰う側ね!」

「ですがいろはさん、今から仮装するんですか……?」

「んー、求導師様はその恰好で充分仮装って言えるんじゃないかな」

「そ、それって私の恰好が普通じゃないと……!?」

「いやぁ求導師様可愛いよ求導師様!食べちゃいたい!スカートの中に潜り込みたい!キャーマキノサーン!!」

「適当言うなよいろは、牧野さんが真に受けて怖がってらっしゃる。実にいい気味だからやめろ」

「宮田先生は存在自体がモンスターだから仮装する必要無いよね。ネイルハンマーだけ持参ね」


双子の歪んだ諍いなどスルーだ。

宮田先生の刺さるような視線もはいはいスルースルー。


「恰好は時間がないからそのままでいいとして!求導師様、お菓子をねだる時はこう言うんだよ?」

「わるいこはいねえがー」

「はいはい宮田先生面白い面白い。ナマハゲよりも怖いからね貴方。求導師様、ハロウィンでは、“お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ”って言うんだよ。さん、はい!」

「お、お菓子をくれなきゃ……悪戯します……?」

「きゃーやだー可愛いー。宮田先生、貴方のお兄さん頂いてもいい?詰め放題麻袋一枚おいくらになるの?」

「俺ならプライスレス」

「いらねえよ」


撲殺天使と鬼畜眼鏡と石田巡査も裸足で逃げ出す野獣だぞこの人は。

御本家童話の野獣も真っ青になって禿げ上がるに違いない。


「求導師様にはあとでお手製の苺ケーキをあげようね!台詞間違えてなかったかどうか不安になったからって、そっぽ向いて一人でブツブツ復習しなくていいからね!」

「えっ!?聞こえてたんですか!?」

「私が求導師様のお声を聞き逃すわけないじゃない……!」


ああもう顔真っ赤にするなよ、その顔に苺ケーキを叩きつけたくなるだろ。


「じゃあ求導師様は求導服一着生クリームまみれルート一択ってことで、今度は宮田先生ね!求導師様、お手本にさっきのもう一回!」

「お、お菓子くれなきゃ悪戯します……!」

「やっと自信ついてきたぞ!って感じが可愛いねー。よし、宮田先生!」

「お菓子くれなきゃ悪戯しますよ?」

「ぎゃああぁ出たああぁぁぁ!!」


目ェ据わらせながらニヤッてすんな!

カッコいいけどダンチの差でとにかく末恐ろしい!

さっきの求導師様の台詞をポップ体で書いたとしたら、今の宮田先生の台詞は間違いなくホラーチックな例の字体で書きたくなるだろ!


「ああっ、お兄ちゃんはこんなに可愛いのに!弟と来たらこんなにやさぐれて……!」

「お前は俺の母親か」

「ところでいろはさんは、誰にもお菓子を貰いに行かないんですか?」

「……そうだね。私も欲しいな、お菓子。ちょっとお菓子せびりに行ってくるわ」

「何処に」

「うん、神代家に」

「ええぇ神代家にですか!?」

「淳様にお菓子貰ってくる!多分高笑いしながらキャンディばらまいて“はっはっは!拾え拾えー!”みたいなことして下さると思うんだよね!」

「ねぇよ」







⇒若者タイム!
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ