SIRENSHORT
□輝け歪な恋心!
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「あのっ!わた、わたし、宮田先生のことが好きなんです!
つッ付き合ってくらしゃい!!!!」
「………」
(か……噛んじゃったーーーーーー!!)
暖かい春の陽気の中、木陰に佇む白衣姿の宮田先生と緊張でガチガチな私。
大好きな宮田先生への想いを打ち明けようか、それともただの片思いで終わらせておこうか、死ぬほど悩み始めて3日目の昼間のことだった。
叶うわけがないけどこの想いをどうしてくれようかなんて、うんうん唸りながら村を歩いていたら、丁度目の前を往診帰りっぽい宮田先生が通過した。
この3日間、宮田先生のことばっかり考えていた私は、もはや条件反射のように宮田先生をとっつかまえ、「こちとら仕事で疲れてるんですけど」って書かれた顔も、その額に流れている汗も、彼の魅力を倍増させるスパイスくらいにしか考えないようにしながらついに想いを告げることにしたのだ。
そして、顔が熱くなるのを感じながら私は叫んだわけだ。
“付き合ってくらしゃい”と。
(私の馬鹿あああぁぁぁ!!!)
私は体温が急激に下がっていくのを感じた。
一世一代の告白で、噛んでしまった。
憧れの宮田先生の前で。
大好きな宮田先生の前で!
しかし当の宮田先生はと言えば、私の失敗を笑うこともなく、ただただ無表情でこちらを見つめている。
「…あ、あの……」
「………」
私の顔に何か付いているのかと思ってしまうくらい見つめられて、緊張してしまうんだけどときめいてしまうのも事実だった。
でも、こんなにアタフタしているのは自分だけで、宮田先生はきっと何も感じていないのだろう。
宮田先生は本当に無表情で、驚く様子も喜ぶ様子もなく私を見据えていた。
どう考えても望み薄である。
いや、告白の相手が宮田先生って時点で、全然期待は出来なかったんだけど。
宮田先生からの反応もないことだし、諦めて謝ろうとしたときだった。
「…あの、すみま――」
「私で良ければ」
「………え…?」
急に宮田先生が口を開いたのだ。
しかも今……何て言った?
「えっと…」
「いいですよ、私で良ければ付き合います」
私は慌てて両手を振った。
「ちっ、違いますよ!?これは買い物とかについてきてほしいとかそういうのじゃないんですよ!?」
「分かってますよ」
「そのっ……こ、恋人になるってことなんですよ!?」
「そうですね」
「恋人っていうのは、男性と女性が特に仲の良い関係になるっていう」
「しつこい女は嫌いです」
「すみません」
私は唖然としながらもしっかり口を噤んだ。
今この人、私に向かってしつこい女は嫌いとか言いましたけど…なのに私と付き合ってくれるんだろうか…本当に?
「えぇっと…じゃあ、その……お願いします、宮田先生…」
「はい。……それで、そろそろ貴女の名前を教えてもらえませんか」
「……ええぇ!!?」
そ・こ・か・らァァァァァ!?
この人、なんで名前も知らないのに交際オッケーしてくれちゃったの!?
ていうか、なんで私のこと知らないの!?
いや、確かにちょっとしか話したことないけど…一応、教会での村行事だとか、病院での予防注射だとか、そんなので数回会ったこととかあったんですよ!?
オッケーしてくれた=私のことを覚えててくれたってことだと思ってた…。
「私は奥山いろはって言います…あの、お好きなように呼んで下さって構いませんから…」
控えめに名乗ると、宮田先生は「そうですか」と小さく呟いてから即答した。
「じゃあ奥山さんと」
せめて下の名前が良かったなーーー!!!
これは、本当に付き合うことになったんだろうか…!?
思いっきりただの初対面なんだけど…!
(はぁ……やっぱり宮田先生に甘い展開なんか望めないのかな……)
見た目もそうだし、喋っても本当ストイックだもんね。
まあそこがカッコいいんだけど…。
結局宮田先生は、「まだ仕事が残っているので」と言ってそのまま帰ってしまった。
私は呆然と手を振って見送ることしか出来なかった。
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