SIRENSHORT

□両手に医者
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午前0:00、けたたましいサイレンが鳴り響き、この村は異様な世界と化してしまった…。

そりゃもう本当に異様な世界だった。

一人きりで家を探して山道を歩いてみる限り、なんだか羽生蛇村が無駄に広くなっているらしいのだ。


そんな訳の分からない状況の中、私は更に訳の分からない事態に襲われていた。


「な…何、このゾンビみたいなの…!?」


私は断崖を背にして、五人の化け物に追い詰められていた。

この化け物、めちゃくちゃ青白くて目からは血みたいなのまで出てるし、動きとか声とかがおかしい。

手にはやけに赤黒く汚れた鋤とか鍬とか持ってるし…。

私、こいつらに殺されてしまうんだ…!


じりじりと近寄ってくる化け物達。

ニタニタ笑いが恐ろしくて、私は震えながら頭を振った。


「お…お願い…来ないで…っ」


こんな所で死にたくない!

強くそう思いながら、とっさに目を瞑りそうになった時だった。


――パーン!!

――ドスッ!!


「ッ!?」


視界の端の遠くで煙が上がり、私の目の前に知らない背中が飛び込んできた。

弾けるような音と共に一人、重い殴打音と共にもう一人、化け物がよろめいた。


(え…?)


人だ。

それも、二人。

どっちも白衣を着てる…お医者さん?


私が呆然としていると、銃を構えたお医者さんが化け物を的確に撃ち抜きながら歩いてくる。

もう一人のお医者さんは、トンカチみたいなのを持って(ネイルハンマーって言うんだっけ…?)、それで力の限り化け物を叩き伏せていく。

二人の攻撃によって、五人の化け物は次々に倒されていった。


「わ……うわあ…」


このお医者さん達、強すぎ…!

彼らの頬や腕に生々しく飛び散る血しぶきすら芸術的に見えてしまうほど無駄のない動きだ。

自分は助かったらしい、と悟った私は、まるで映画でも見ているようだと感じながら、その場にズルズルと座り込んでしまった。


やがて全ての化け物が倒れると、一人は銃の筒から立ち上る煙をフッと吹き、もう一人はネイルハンマーに付いた血をピッと振るい。

そして座り込んでいる私を見下ろしたかと思うと、ほとんど同時に手を伸ばして


「「大丈夫(です)か?」」

「え……」


ハモった。

呆然としている私を余所に、二人のお医者さんがこっちに手を差し伸べたまま見つめ合う。

…その鋭い目と目の間に、見えるはずもない変なバチバチっとしたものが見えるのは、きっと気のせいだと思う。

うん、私、疲れてるんだね…。


「その白衣…何処かの医師か?」

「そちらこそ」


銃のお医者さんの言葉にネイルハンマーのお医者さんが冷たく返す。

うう…怖いよ…!!


私は勇気を振り絞って「あのっ」と声をかけた。

…えっと、同時にこっち見ないで下さい、非常に怖いです。


「あの…助けて下さってありがとうございます。本当に助かりました!」


この二人が来てくれなかったら、今頃私の命はなかったんだもんね…。

そんな命の恩人に甘え過ぎるのも気が引けたので、私は「自分で立てますので」と笑うと、腰に力を入れた。

………。


「………あれ?」


怪訝そうな顔で私を見下ろす二人のお医者さんに、私は「あはは」と苦笑いを見せた。


「た、立てません…」

「「はぁぁぁ〜…」」


た、溜息までハモることないじゃない!?

二人して首や額に手をやって、「やってらんね」みたいな顔をして!

そりゃあ、私がこんな情けないからいけないんだけど…!!


「だから手を貸そうとしたんですよ。ほら、立てますか」

「すみません…」


ネイルハンマーのお医者さんの手を借りて、やっとフラフラと立ち上がる。


「このままここにいては、こいつらが復活しかねん。早いところ避難した方がいいだろうな」


銃のお医者さんが、倒れている化け物たちを見ながら冷静にそう言う。


「あの、私、奥山いろはっていいます。何処に行けばいいのか分からなくて…」

「ああ、犀賀です。とりあえず、こいつらの目につかない場所まで」


銃のお医者さん――犀賀さんが手で「こっちに来い」をしたので、私はネイルハンマーのお医者さんに手を引かれて、ようやくそこを後にした。


「気に入らない男だな…」

「え?」

「いえ、何も」


ネイルハンマーのお医者さんがポツリと呟いた後で、話を逸らすように「私は宮田です」と教えてくれた。

………多分、見知らぬ人と同時に私に手を差し伸べてしまったことが気に入らなかったんだろうなと思う。

助けてもらったのはとても有難いけど、これからがとても不安です。










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