SIRENSHORT
□ストーカー彼女
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宮田医院院長である宮田司郎の朝は早い。
今日もまだ空が薄暗いうちに起き出して支度を始め、やっと空が白んできたかという頃に家を出る。
この時間だと、外を歩いている人間は本当に少ない。
…が。
「宮田先生、おはようございます!今日も白衣がカッコいいー!!」
「………」
車にキーを刺そうとしたところで後ろから喧しい声がかかった。
宮田が振り向くと、そこには制服姿の少女が立っていて、眩しいぐらいに微笑んでいる。
もはや見慣れた毎朝の光景を前に、宮田は手を額にやって溜め息を吐いた。
「…また貴女か…」
「朝の挨拶はそうじゃないです!“おはようございます”ですよ、宮田先生!今日は川崎のおじいちゃんのとこに往診ですよね?あのおじいちゃん偏屈で相手が大変だって有名ですから、気合い入れて行かないといけませんね!」
…この女は何故往診スケジュールを知っているのか。
(家の戸締まりはしてたはずだ…。窓、閉めたな。玄関も閉めてたとなれば病院か……全く、いつの間に入りやがったんだ…)
宮田が一人で考えている間にも彼女はにこにこと微笑んでいる。
このいろはとかいう女。
いつだったか、村で会って何となく挨拶を交わして以来、それからちょくちょく色んな所で会うようになり、彼女が話しかけてくるようになって…。
「宮田先生?考え事ですか?あっ、悩み事ならお聞きしますよ!」
「結構です」
知らないうちにこんなにも図々しくなっていた。
鬱陶しいことこの上ない。
「私は病院がありますので失礼します」
「ええっ、もう行っちゃうんですか!?」
無視するように車に乗り込み、構わず発進させた。
ちらりとフロントミラーを見上げると、通学鞄を片手に持った彼女が笑顔で手を振っている姿が映った。
「………まだ6時だろ。学校も開いてないのに毎朝毎朝……馬鹿馬鹿しい」
朝も苦痛だが、医院にいる間もそれはそれで苦痛である。
医院、院長、宮田、当主、教会、神代、裏の仕事、責務……語り尽くせない。
女の視線も鬱陶しくて仕方がない。
恩田美奈を筆頭に、看護婦達から何やら視線を貰いまくる日々。
訳の分からないアピールも、期待になんか応えてやる気は微塵もない。
あの義母を始め、つくづく嫌な女に縁があると思った。
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