SIRENSHORT

□兄妹愛≒異性愛
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※このお話は『愛情≒憎悪』と対になっています。
こちらの方が明るいので、前述のお話の後に読むと幸せになれます(笑)。











「いろは、何処に行ったんだ…っ」


宮田家の中を、唇を噛み締めながら闊歩する。

いろはが見つからない。

宮田はどうしようもなくイライラして、もう何度も確認したはずの扉を開けて回った。


「いろは、何処にいる!!」

「…司郎様」


使用人がおずおずと声をかけてくると、宮田は憮然とした表情で答えた。


「…何だ」

「彼女でしたら、先程教会に…」

「……キョウカイ」


宮田が呟くと、使用人はその声の低さに怯えて引っ込んでいった。


「…よりによって…教会」






「えっ…明日は雨なんですか…?」

「そのようです。その雨が去るとしばらくは蒸すそうで…」

「いろは!!」

「ッ…!?」


教会で牧野と話をしていたいろはは、突然開いた扉の音と大声に、ビクリと肩を震わせた。


「み、宮田さん…そんなに慌ててどうしたのですか?」


驚いているいろはを宥めるように、いろはの肩に手を置きながら牧野が訊く。

それを見た宮田はいろはのもう片方の肩を掴んでいろはを取り返し、思いっきり牧野を睨み付けた。


「俺の妹に気安く触れないでくれませんか…?」

(ヒィ――!)


牧野は震えながら「すみません、宮田さん…」と声を絞り出す。

宮田はそんな牧野を見てまた顔を顰める。


「私と同じ姿でそんな情けない顔をしないで下さいよ。兄の沽券に関わる」

「す、すみません」


急いで顔を押さえて元に戻そうとする牧野を見て心配したいろはが宮田の白衣を引っ張る。


「きゅ、求導師さまは関係ないよ!顔や声は同じでも、私の兄は一人だけだよ!ね、お兄ちゃん…っ?」

「っいろは…」


“ね、お兄ちゃん?”なんて潤んだ上目遣いで聞いてくる妹の姿に、宮田の胸がキューンと鳴った。


「…私の妹が邪魔をしました」

「い、いえ……」


宮田は牧野に向き直って頭を下げると、いろはの腕を掴んで踵を返し、歩きだした。


(あのヘタレ求導師め…俺が来なければ今頃ヘタレなりにどんな横行を働いていたか分からないな)


「いろはちゃん、またいらっしゃいね」

「は…はいっ、求導女さま!」

教会の奥から声をかけてきた求導女にいろはが慌てて返事をする。


(誰が二度と行かせるか!百合要素はあの恩田姉妹で事足りる!!)


「いろは、ついて来い」

「っうん…」


怯えるいろはを連れて、教会を出るところで青年に出くわした。


「あれ?宮田に…その妹か」

「…淳様」


宮田は内心舌打ちをする。

地位だの何だのを重んじている癖に、この男は何かといろはを気に入っているのだ。


「奇遇ですね。教会に御用でも?」

「宮田のお前は知る必要もないことだ。…それよりいろは、久しぶりだな。へえ…ますます大人っぽくなったんじゃないか?」


下心丸出しの目でいろはを覗き込まれ(たように宮田には見えていた)、宮田はとっさに淳の向こう臑を蹴り上げた。


「いぃッ…!?」


かの有名な弁慶が泣くところは神代家期待の婿養子さまも泣くらしい。

涙目の淳がギリギリ歯を鳴らしながら宮田を睨み付ける。


「お前…ッ」

「淳様のおみあしにハニューダカブトが付いてたんですよ。昆虫最弱とも言える下等動物が、高貴な淳様のお体で役にも立たん羽なんぞを休めようとするので僭越ながら鉄槌を下させて頂きました。礼は恐れ多くてお聞きできません。神代と教会は絶対ですから…」

「お前、いけしゃあしゃあと…」

「教会に宮田の聞けない大切な御用があったのではありませんでしたか」

「こいつめ…ッ、義父が遊びで生んだ罪の子如きに何処まで…!」


借りはそのうち返すからな!と吠えながら淳が去ると、一礼してからいろはの腕を引いて歩き出す。

医院の近くを歩いていると、後ろから声がかかった。


「先生!先生じゃないですか」


振り向くと、嬉しそうに走ってくる恩田美奈。

宮田は小さく溜め息を吐いた。


「急いでるんだが…」

「そうなんですか?すみません…でも丁度良かったです。お菓子を焼いたから先生にもと思って…」


――鬱陶しい。

宮田は「生憎腹は空いてない」と断ち切った。


「そうですか?ああ、それならいろはちゃんに…久しぶりに会ったわ。いろはちゃん元気?」

「レズは妹に触るな!!」

「あぁっ、クッキーが!」


美奈は宮田に叩き落とされたクッキーを慌てて拾いながら「え?レズ?」とか首を傾げている。


「お兄ちゃん、レズって何…?」

「いろはは知らなくていい事だ。それよりも、早く帰るぞ」

「う、うん…」


宮田は早歩きをしながら舌打ちをした。

憎くて煩わしい奴らばかりだ。


「お兄ちゃん、歩くの速いよ…っあ、腕…痛いよお兄ちゃん…っ」


涙目で訴える妹に、また宮田の胸がキューンと鳴った。










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