SIRENSHORT

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「いろは!こうしてる間も先生は医院で待って下さっているのよ?ダダをこねるんじゃないの!」


掛け布団を被って部屋から出ようとしないいろはに、母親が腕時計を気にしながら怒鳴った。


「母さん出掛けなきゃならないの知ってるでしょう?早く病院に行きなさい!」

「絶対に嫌!母さんは俺が受けた屈辱を知らないからそんなことが言えるんだよ!絶対に行かないからな!」


高3にもなって我が儘を言う息子に溜め息が出てしまう。


「あのねぇ…高3にもなってエッチなビデオ見ても何にも反応しないアンタが病院で恥ずかしいことさせられるのは仕方ないでしょう。悪い部分が部分なんだから」


出産なら大勢の医者達の前で足を開かなければならない、そんなものだ。

性器が悪いのならそこを見られて触られるのは仕方がない。


「週二日医院に通えばきっと将来子孫も残せるようになるわ。だから頑張ってらっしゃい!」

「………母さんのバカ。分からず屋」


バカとは何よ!と怒りだす母親をよそに、いろはは布団の下であの屈辱を思い出していた。

医院の診察室。

あの宮田とか言う愛想のない若い医者に、いきなり変なピンク色の薬を飲まされて身体中弄くられ、挙げ句の果てには女みたいに掘られて気絶するまで鳴かされたのだ。

目が覚めたときには既に医者の姿はなく、キレイな看護婦さんが、顔色の悪いいろはを心配して親切にも医院の外まで見送ってくれた。

嬉しいのは確かだが、それよりも恥ずかしいの何のって。

週二日通院せよとの診断だったが、あの地獄を二度と味わいたくないがために暴れ尽くして早一週間。


(母さんもいい加減に諦めてくれればなぁ……)


蒸し暑い布団の中で溜め息を吐いたとき、家のインターホンが鳴った。

母親が慌てて作った声で「はぁい」と返事をする。

集金か回覧板だろうと思っていたいろはの耳に、母親の甲高い声が入ってきた。


「あら、先生!わざわざ来て下さったんですかぁ?」

「!?」

玄関で何やら楽しそうに騒ぐ母親。

一方いろはは、


(たっ…担任だ!そうだよ担任だ!進路希望の紙をまだ出してねえから怒りに来たんだよな!?あっちの先生じゃない!絶対あっちの先生じゃないーーー!!)


遠くから「いろはー!」と自分を呼ぶ母親の声が聞こえた。


「病院から宮田先生が来て下さったわよー!?」

(帰れーーーーー!!)


いろはの頭の中に家の間取り図が浮かんだ。


(部屋を出てすぐ父さんと母さんの寝室に入ってベランダから物置に飛び移って…いやその先は玄関だから駄目だ!仏間を通って台所に入って勝手口…いやこれは無理がありすぎる!じゃあ廊下を愚直ダッシュして爺ちゃんの部屋から庭に…出て何処行くってんだよ!それが駄目なら…)


「何をしているんだそんな所で」

「ギャアァ!!」


ぐるぐると脱出ルートを考えていたら、掛け布団をはがされて秒で捕まった。




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