SIRENSHORT
□茂み越しの恋
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羽生蛇の朝。
通学鞄を持って家を飛び出したいろはは、腕時計を気にしながら学校と正反対の方向に足を向けた。
ジグザグした坂道を駆け上ると、建物――不入谷教会が見えてくる。
乱れた息を整えながら茂みの影に隠れると、道の向こうから程なくして一組の男女が現れた。
一人は聖女のような笑みを湛えた求導女、八尾比沙子。
そしてもう一人は、いろはが食い入るように見つめている隣の黒服の男性で…。
ふと、その男性がこちらを見た。
いろはは慌てて首を竦めたが、彼は茂みに隠れるいろはに気付いたようで、そっと微笑んで手を振った。
「!」
いろはは途端に二人に背中を向け、その場にしゃがみこむ。
後ろで二人が教会へ入っていくのもお構いなしに自分の胸の辺りをギュッと握り締め、
「求導師さまに手、振られちゃった…!!」
ここまで来るために走り疲れていたのも忘れ、足下に置いてあった鞄を引っ掴んで再び走り出したのだった。
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