SIRENSHORT

□ラムズイヤー
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「今日もお祈りをしなければ…」


羽生蛇村は不入谷眞魚教会の主を務める求導師、牧野慶。

一日の義務を果たすために腰を上げた牧野の背中にドンッと衝撃が来た。


「おっはよー求導師さま!元気ー?」

「げ、元気だけど…もう昼だよ…!?」


背中に飛び付いてニコニコ笑っている女の子、いろは。

背中が痛かったが、牧野は我慢した。


「いいのー!日曜日だもん、私が起きたのついさっきだから!」


えへへー、と笑ういろはは一向に牧野の背中から離れない。

聖職者とは言え牧野も男、しかもウブなので、若い女の子に抱きつかれて動揺しない訳がない。


「求導師さまの背中、広くて温かいねぇ。私 好きだなぁ…」


毎日のように嬉しそうに抱き付いてくるいろはに、牧野も期待しないわけがない。

しかし…。


「その…いろはちゃん。私の背中、好きなのかな…?」

「うん、大好きだよ!お父さんみたい!」

「っ……だよねぇ…!」


分かりきっていたが、それでも牧野は一人項垂れて少し泣いた。


調子に乗ってはいけない。

いろはのこの、良く言えば小悪魔、平たく言えばアホな性格は見事なほどに天然モノなのだ。


「そうだ、求導師さま。求導女さまが求導師さまのこと好きって言ってたよ?」

「へえ……ええッ!?」

「さっき呼び出されて、求導師さまに伝えてって…」

「え…えぇぇ…そんな、まさかっ…八尾さんが!?」

「嬉しい?」

「うっ…そりゃあ…好かれることは、その…」


牧野は顔を真っ赤にして狼狽していたが、その様子を見たいろはが腹を抱えて笑い出した。


「求導師さま、冗談だよー!」

「冗談…!?」

「悲しい?」

「悲しいよ!!」

「あははははっ!」


いろはは目尻に涙まで浮かべて笑う。

毎回こんなふうにからかわれる牧野だが、そんな悪戯をして喜んでいても可愛らしいいろはを怒るに怒れなかったのだった。





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