SIRENSHORT

□鬼畜プロポーズ
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一方その頃。


「あの…宮田先生?」

「何ですか、理沙さん」

「何か……誰かここに紛れ込んでませんか?女の子の声が聞こえる視界があるんですけど…」


宮田は立ち止まって目を閉じる。


「………」


…あった。

明らかに屍人ではない、白くて健康な細腕に何故か布団叩き。

息遣いも普通の人間のものだ。


「…すぐ近くだな。理沙さん、捜しましょう」

「はい…」


宮田は視界ジャックを解くと、廊下の先の扉に向かって歩き出した。





そんな事も露知らず、いろはは扉を背にして布団叩きを握りしめたまま立ち尽くしている。


「ど、何処に行けば…」


その時、後ろに唐突に何かの気配を感じた。


「ハッ…殺気!」


慌てて振り向いた時にはドアのノブが回っている。

いろはは開いた扉の向こうに向かって布団叩きを力強くスイングした。


「わ、私の後ろに立つなアアァーーーッ!!!」


――ガスッ!!


「宮田先生ーーーッ!?」


頭を押さえてその場に崩れ落ちた宮田に理沙が絶叫した。


「えっ?えっ、人間!?」


慌てふためくいろはの首を、下からビュッと伸びた手が素速く捕まえ、医者は頭から額にかけて血を垂らしながらいろはを見上げた。


「お 前 は ゴ ル ゴ か」

「ギャアアァァ怖い!!ごめんなさい!マンガの読みすぎでごめんなさいイイィ!!」

「宮田先生、ゴルゴ13とか知ってるんだ……」


後ろで理沙が驚いたように呟いたがスルーされた。


「でっ、でも貴方も悪いですよ!いきなり後ろから近付いてくるなんて…!あの化け物達と勘違いされたって文句は言えないですよ!」

「あ…そうだわ、こんな所で騒いでたらまたアレが……宮田先生っ」

「そうですね。しかし美奈さんも捜さなければ…。ここは二手に分かれましょう。……名前は?」

「人に名前を訊くときは まず自分からって……あ、あー言います!一度言ってみたかった台詞をここで使ってごめんなさい!!言いますから その武器降ろして下さいいぃぃ!!」


心臓をバクバク言わせながら名乗ると、医者は頷いた。


「私は宮田、こちらは恩田理沙さんです。今は理沙さんの双子の姉、美奈さんを捜しているところなんです。というわけでいろはさんは私と、理沙さんは一人で行って下さい」

「「えええぇぇ!?」」


いろはは美奈よりも先に理沙とシンクロした。


「み、宮田先生!?先生といろはちゃんは武器を持ってますけど、私は丸腰でっ……ていうか死んだら一番に呪ってやる!」

「理沙さんの言う通りですよ!理沙さんのこと護ってあげないと……つーかお前みたいな怖いのと二人きりとか無理に決まってんだろ!」


後半は二人とも本音が出てしまったが、宮田はいろはの頭にポンと手をやると爽やかに笑った。


「すみません。少し私用もあるもので…ねえ、いろは さ ん ?」

「私用って……い、痛い!宮田さん!?私の頭ミシミシ言ってるうぅぅぅ」

「…宮田先生、殴られたことまだ怒ってるんだ…」


やっと宮田のヘッドクロー(?)から逃れたいろはは理沙に詰め寄った。(避難したとも言う)


「理沙さん!私と宮田さん、どっちと一緒に行きたいですか!?どっちに護られたいですか!?ちなみに私の格闘センスは先程見ての通りゴルゴ並ですよ!」

「えっ?そんな…私は…」


理沙は慌てたように二人を見比べる。


「…一人は嫌だけど、どっちかと二人っきりも、絶対イヤ……」

「「…………」」


女の子同士なのに。

さっきまで同行してたのに。


二人の視線が突き刺さるが理沙は意思を曲げなかった。

そして最初からそうすりゃ良かったのにとばかりに三人揃っての美奈捜索が始まった。


「あ、ところで理沙さん!美奈さんの特徴とかないんですか?」


いろはが布団叩きをくるくる回しながら訊くと、理沙が首を傾げた。


「そうだなぁ……私の双子のお姉ちゃんだから顔はそっくりだけど…」

「なるほど理沙さんそっくり……あっ、こんな所に武器になりそうなのがありますよ!」


とある一室でいろはが指さしたのは薬棚の残骸に刺さった鉄パイプ。

若干細めで所々歪曲しているが、これで化け物を殴ることは出来そうだ。


「では理沙さん、丸腰では不安だと思いますから」

「あ、はい……でもコレ、抜けるのかなぁ…」


瓦礫から抜けそうにないパイプを前に困る理沙。


「理沙さん、私がやってみま――」


ガッ!


「………え?」


よいしょよいしょと懸命に鉄パイプを引っこ抜く理沙の後ろから声をかけようとしたいろはの後ろから宮田。

肩に置かれた手を不思議そうに見ていたら そのままズルズルと後ろに引っ張られた。


「ちょっ、何!?」

「今のうちに少しお話を」

「えっ!?やだ、ちょっと、理沙さーんッ!!」


理沙は気付かないのか、振り向かない。

そのまま部屋を出て扉が閉められた。


(ごめんね、いろはちゃん。私、宮田先生には勝てないの……)


怖くて振り向けないだけだった。










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