SIRENSHORT
□鬼畜プロポーズ
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8月の夜、羽生蛇村。
「はぁ…お留守番なんて楽しくないよー…。私も儀式、見に行きたかった…」
今日は神代家の娘が神様に嫁入りする大切な儀式の日。
退屈なこの村での滅多にない一大イベントだと言うのに、夜は危ないからと両親にハブられ、大絶賛お留守番中(?)。
時計に目を向けると もうすぐ24時。
「……神代家の娘さんだもん。すごく可愛いんだろうな…。それに、数十年に一度の珍しい儀式……やっぱりお留守番なんて出来ないっ!」
いろはは思い立ったように立ち上がり、暗闇の中でも目立ちにくい服を選んで着替え始めた。
「こっそり儀式を見て、お母さん達より先に家に帰ればいいんだ」
着替え終わったいろはは鏡を見て手櫛で髪を整えると、張り切って部屋の扉に手を伸ばした。
「よし!いざ、嫁入りの儀式へ――きゃあッ!?」
いろはが扉を開けた瞬間、家が大きく揺れ始めた。
いろはは慌てて壁にしがみつき、聞こえてくる妙なサイレンに顔を顰める。
「な、何…っ?」
変な声も聞こえる。
いろはは怖くなり、とっさに腕を伸ばして手探りで武器になる物を探し、何かを掴んだ。
しばらくすると地震が治まり、いろははそっと目を開けた。
「……おぉう!?」
何ということでしょう。
「あれ!?家がない…庭もない!なんで?ここ何処!?森?林?」
いろはは手に掴んだ物に気付く。
「………布団叩き?」
なんで私の部屋にそんなものがあったんだ…。
いろはは途方に暮れる。
しかしその時、遠くから変な声が聞こえた。
「な、何?このゾンビみたいな声…っ」
気持ち悪い化け物はすぐにやって来て、いろはを見つけるとニタリと笑った。
「……あれ?斎藤さん?」
いろははビックリした。
「あ、あれッ!?隣の家の斎藤さん!?斎藤さんですよね!?その顔どうしちゃったんですか!?羽生蛇ヘアーに続くニューファッションですか!?」
いろはは追いかけてくる斎藤さん(らしき化け物)から逃げながら叫ぶ。
そうこうしているうちに、別の化け物に見つかった。
「ぎゃあぁぁ斎藤さんの奥さん!夫婦お揃いでこんばんは!斎藤さんちの庭の柿盗んだの私じゃないです!近所の悪ガキのカッちゃんですって!だから追いかけて来ないでーーッ!!」
逃げに逃げ続け、走り疲れてしまったいろはが振り向くと、二人は気持ちの悪いニヤニヤ顔で追いかけてきている。
「こ…こうなったら!」
いろはが覚悟を決めて武器を構えると、斎藤さん達は急に仰け反って叫び始めた。
「お、おぉっ!?何!?歓喜の雄叫び?仲間呼んでるとか?よく分からないけど隙あり!?」
いろはは素速く布団叩きを振り上げた。
「最後だから言うけど……アンタんとこの柿、シブいんだよ!!」
バシッ!
「干せ!吊せ!干し柿にしてしまえ!」
バシッ!バシッ!バシッ!
――すみません、私も柿を盗みました。
カッちゃんと共犯です。
「はぁ…はぁ…。……この布団叩き、鉄で出来てんのかなぁ…」
老人とは言え、大の大人を二発で打ち倒すとは…。
ありがとう布団叩き!
布団叩きバンザイ!!
「…あれ?」
気付くと そこには見覚えのない白い建物が建っていた。
「病院…?……あっ!」
男性と女性の二人組が病院に入っていくのが見えた。
「人間だ!追いかけなきゃ…!」
いろはは慌てて走り出す。
しかし…。
「先生ェ…」
「きゃああぁ誰!?看護婦さん!?何ですかアナタ!?」
看護婦さんと自分で言っておきながら。
「こ、来ないで!来ないでー!!」
ガンッ!ゴスッ!バキッ!
「ふぅ…三発でようやく撃破か……貴女やるわね…見直したわ…」
知らない人だけど。
何だか変にテンションが上がってきてしまったいろははようやく院内に入る。
あの二人は何処に行ってしまったのか。
「やだ……病院ってなんか不気味だな…」
いろはは布団叩きを握りしめて歩き始める。
「キィッ!」
「うおぉいきなり見つかった!?何コレ!犬!?洋画エクソシスト!?」
屍人と戦うときは何故かものすごくハイテンションになるいろはは、最早相棒となった布団叩きで敵を撃退する。
「こいつ、絶対ドアとか開けれないよね…よし、封印!(バタンッ)」
いろはは視界ジャックにも気付いていないのに、作品のジャンルを変えてしまいそうな勢いで布団叩き片手に院内を突き進む。
「うぅ…あの人達、何処に行ったんだろう……」
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