SIRENSHORT
□花火
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「求導師様、花火やりましょう!」
突如として現れた少女、いろはは浴衣姿。
その手に花火の入ったビニール袋を持っている。
牧野は突然の来客に目を見開いた。
「いろはさん、祭りには行かないんですか?」
「だって、求導師様は行けないんでしょ?」
「ええ、危ないからって八尾さんが…」
教会の外に出て、いろはが蝋燭に火を付けた。
「この蝋燭に花火を翳して下さいね。火が付きますから………ほら」
大きな音を立てて発火した花火に、牧野がビクッと震えた。
「花火、初めてですか?」
「ええ。こんな花火は……」
牧野も一本、手に取って火を付ける。
「これが……」
「綺麗ですよね!」
花火の火が手元まで上がっては来ないかと不安になるが、花火に照らされて微笑むいろはを見ると何だか安心した。
「他にも色んな種類がありますよ。ネズミ花火とかやりますか?」
「ネズミ?」
「地面で弾けて追いかけてきます」
「!?」
「半分冗談です」
あはは、といろはが面白そうに笑う。
「自意識過剰って分かってるんですけど、なんか自分ばっかり追いかけられてる気がするんですよねー」と言いながら何かに火を付ける。
「ね、ネズミですか?」
「違います。閃光花火ですよ」
今までのものとはうってかわって、静かに、控えめに光り始めた花火。
パチパチと弾けてやがて丸い玉が落ちてしまう。
「…儚いですけど、和みますよね」
「…そう、ですね…」
次々燃える花火が綺麗で、でも何より、それを眺めて微笑むいろはが綺麗で。
いろはが荷物から腕時計を出してきて、蝋燭の火に翳してそれを読んだ。
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