SIRENSHORT

□入れ⇔替わり
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「あら、宮田先生、こんにちは」

「…え」


その日は雨が降っていたので、牧野は求導服が汚れてしまわないようにと珍しくブラウスに黒ズボンの、あの独特な部分を取り除いたような普通の服装で外に出ていた。

髪も濡れてしまったので、あのセンター分けの前髪は今や崩れてしまっているだろう。

そんな時、そばを通りかかった女性に声をかけられた。

『宮田先生』と。





「求導師様、傘をささないと風邪をひいてしまいますよ」

「…は」


一方、宮田も大人の事情で血塗れになってしまった白衣と青シャツを洗濯に出し、今日の牧野と変わらない服装で外に出ていた。

前髪から滴る水滴が鬱陶しいので邪魔っけに掻き分けたらセンター分けのようになってしまった。

そして通りかかった男性に『求導師様』と呼ばれた。





普段は服装にも髪型にも決定的な違いがあるので分かりやすいが、それらが変わるとこんなにも間違えられるようだ。


宮田と牧野はその時、やはり双子なのか、全く同じことを思っていた。


((彼女は…見分けられるんだろうか?))










「貴方も同じことを考えていたんですね……やっぱり双子ってことかな」


後半はどこかで聞いたような台詞を宮田が放つ。


「ということは、宮田さん、貴方も同じことを考えて……」


宮田と牧野は各々の服を携えて向かい合っていた。


「「いろはさんが、入れ替わった私達を見分けられるかどうか」」


ここに下らない一大イベントが発生した。


そもそもいろはとは、この羽生蛇村に住む少女のこと。

昔から宮田医院や不入谷教会に度々訪れては次第にそれぞれと仲良くなっていった。

知らないうちに双子揃っていろはと交友関係を持っていたことを二人が知ったのは ほんの数年前。

二人で交代交代に見守っているような、単純に取り合いをしているような、複雑な三角関係が続いている。


「…これでいい。いろはさんにはこの教会に来るよう連絡をしておきましたから、あとは待つだけですよ」

「はい…。ですが、もしも どっちがどっちか気付いてもらえなかったら…」

「牧野さんの彼女への信頼はそんなものでしたか」

「!?」


勝ち誇ったような宮田の笑みに牧野は息を詰める。

しかも宮田は今、あの羽生蛇ヘアーに求導服を来た、自分そのものの姿だ。

余計に複雑になる。


(なっ…何なんだ、この屈辱は…!?)


牧野は負けじと顔を顰めた。


「み…宮田さんも落ち着きがないじゃないですか。さっきからウロウロと忙しないですよ」

「!!」


宮田は思わず歩き回っていた足を止めた。

白衣を着た自分の姿に戸惑う。


(こんなにふてぶてしい顔をしていたのか俺は…)


お互いにゴクリと唾を飲んだとき、バーンと教会の扉が開いた。



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