Replica*Doll

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果てしなく歩いてゆく。
彼はこの暗闇の何をも恐れずに、ただただ小さな足を前へと突き出し、まるで探検でもしているかのような軽い足取りで歩いていく。
少し速すぎる。
ルークは辺りの様子を忙しなく窺いながら少年ガイの後ろ姿を追った。

「お…おい、待てよ、ちょっと速いって…」

その後、咎めるように続けるつもりだった彼の名前は、何故か自分も知らないような不思議な名前だった。

「――アッ、…シュ?」
『…は?』

ルークは、自分がよく分からないことを口走ってしまったことを理解した瞬間、足元がぐらぐらと歪んだのを感じた。
気持ち悪い暗闇の渦。
歪み(ヒズミ)が出来たようだった。
少年も、流石に立ち止まって、訳が分からなさそうな顔でこちらを振り向いていた。

「あ…ぁ、ごめん…ガ………ガ…イ…だよ、な…お前」
『…そうだけど』

それが何か、と少しどうしていいのか分からないというような声だった。
ルーク自身も、どうしていいか分からなかった。

(俺…今、何て言ったんだ?)

努めて冷静になろうとしてそう考えた途端、頭の中の水面が大きく揺らめいて波紋を生んだ気がした。
先程の自分の声だけが、ぼんやりと思い出せなくなってしまった。
…自分はさっき、ガイのことを何て呼んだのだろう?

『…それで、どうしたんだい、ルーク?』

気を取り直したように、少年ガイはルークに問いかけた。

『僕を呼びたかったんだろう?』

微笑んで首を傾げるガイは、呆然とするルークを見遣って踵を返す。

『何にもないなら行くよ?』

またあの速度で歩きだそうとしたガイを、ルークは今度こそちゃんと彼の名前を呼べたようだった。

「ガッ…ガイ!待って!」
『どうしたの?』

ようやくガイのそばまで走り寄って、小さな少年を見つめた。

「少し…速いよ…」
『え?』
「歩くの速いって!それに、出口にも全然辿り着かねえし…っ。い、いつになったら着くんだよ」
『速いのは仕方がないさ。あいつはこの道で止まるなんてことは許されなかったんだ。息を吐く暇なんてなかったぐらいに辛かったんだ』
「は…あいつ…?」
『そうだよ、僕等があいつの道を辿っていくなら、速さだって歩き方だってあいつのやり方に沿わなきゃならない』
「あいつって誰だよ!俺達、早くここから出ないと、こんな暗くて危ないところ…ここ何処なんだ?あの変な黒いやつの腹の中なの?俺達食われたのか?出口は?」
『ルーク、あいつはこの世界の中心だよ。僕等には危ないことなんて一つもないから大丈夫さ。ここはあいつだけが知ってた世界。僕がここを形として創り出して、君は取り込まれた。出口なんてないんだ』

少年は淡々と答えてゆき、最後に小首を傾げて微笑み、満足かい?と最後に付け足した。

「あいつって誰…?」
『この世界の中心の人だよ』
「違う、名前だ!」
『名前?』

そこでやっと、彼の即答は止まった。
そうだね、と考えあぐねるように宙に視線を泳がせ、ルークを見た。
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