Replica*Doll
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「うかない顔だな…何かあったのか?」
いつものように宮殿に行くと、謁見の間の玉座に腰をかけていたピオニーは顔を顰めた。
夢を見た朝のことだ。
ルークは今まで、夢というものを見たことがなかった。
夢という現象がこの世に存在することは知っていたが、ルークの睡眠の中にそれが現れたことは一度もなかった。
そしてルークも、そんなことは別に気にしたふうでもなく、毎日を過ごしてきたのだ。
当たり前のことだ。
何故ならルークにとってはこの日常こそが。
「お前がそんなふうに落ち込むのは見たことが無い…俺で良ければ聞くぞ?」
「ありがとうございます…。ピオニー陛下は、夢を見たことがありますか?」
「夢?」
ルークは俯きがちに目だけでピオニーを見つめて立っていた。
玉座に座るピオニーは、これは長話になると踏んだのか、その玉座に座り直し、顎を擦った。
謁見の間にはメイドが二人ほどいたが、ピオニーはそれをとやかく言うでもなく、話を始める。
「そうだなー…俺はよく見るぜー?例えば可愛い女の子の夢とかな」
「女の子ですか?」
「そうそう、ルークももうそろそろ分かってもいい時期だよな?こう…浪漫ってものをだな、俺が直々に教えてやろう!」
「はあ…ありがとうございます」
ルークはよく分からないままにとりあえず感謝の言葉を述べる。
ピオニーはうんうんと満足げに頷いたが、あの大佐がそれを許すわけはなかった。
「陛下、ルークに変なことを教えたりしたら二度と女性を見られないようにしますよ」
「げっ、ジェイド!」
「おはようございます」
慌てて振り返るピオニーに、ジェイドは語尾にハートマークが付きそうな口調で首を傾げる。
一体何処から出てきたものか。
ルークは目の前で行われる訳の分からない遣り取りに目を瞬いたが、ふとこちらを見たジェイドの視線を感じて我に返った。
「で、ルーク。夢の話をしていましたか?」
「あ、うん。ジェイドはどんな夢を見る?」
ジェイドはピオニーの元を離れ、軍服のポケットに両手を突っ込んだままルークの方へと歩み寄る。
一体どんな返答が来るのだろうと待っていたが、ルークに与えられたものは…ジェイドの掌だった。
「…熱は無いようですね」
「はぁっ?」
我ながら素っ頓狂な声を上げてしまったとは思うが、驚いたのだから仕方が無い。
ルークの額から手を離したジェイドの笑顔が視界に入った。
「顔色が悪いですよ…気付きませんでしたか?足取りもふらついているようですから、今日は休みなさい」
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