Replica*Doll
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知らないうちに眠ってしまっていたようだった。
「ぅ…」
ずっと抱き締めていた地図をガサガサと鳴らして眠い目をこすれば、外からはチュンチュンという朝独特の澄んだ鳥のさえずりが聞こえる。
ルークがゆっくり身体を起こし窓に近寄ると、村の家々の数件の煙突からはすでに煙が立ち上り始めていた。
「朝…」
爽やかな朝だ。
昨日あれだけガイを想って泣いていたルークの心は、それを目の前にして奇妙な静寂を守っていた。
朝の平凡な雰囲気に呆然としてしまっているのかも知れない。
ルークはまだぼおっとしながら――ルークはもともと朝に強い体質ではなかったのだ――ぐしゃぐしゃになってしまった地図をベッドのサイドテーブルでのろのろと伸ばした。
ほんの少しだけ皺が薄くなったところで、ルークは長いボサボサの髪を整えるように片手をやる。
そしてそのまましばらく夢と現実の狭間を行き交って――。
「っいけね、ダアト!!」
ハッと我に返るとバタバタと支度を整えだした。
**********
「おはよう、夕べはよく眠れたかい?」
宿を出て一番にそこに向かえば、台所で何やらスープを掻き混ぜていたローズがその手を止めて振り向き、訊ねてきた。
「はい、お陰様で…身体ももう大丈夫です!」
ルークは昨日と変わらないローズの笑顔に安堵を覚え、にっこりと微笑んで答える。
「そうかい、そりゃあ良かった。何しろ昨日のアンタはそりゃもう顔色が悪くて悪くて…。今朝はウチの朝食を食べておいきよ。あたしが腕を振るって作った料理なんだからね」
そう言われて家の中を見渡せば、ローズの家族達がそれぞれ頷く。
それを見るとルークの表情は一層明るくなって、弾んだ声で、ありがとうございます!と叫んだ。
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「もう行っちまうのかい!?」
朝食を食べ終わった後出発の旨を伝えれば、当然のようにローズの驚いた声が返ってきた。
「はい、あの…あんまり長居をしてると、迷惑だし…」
「迷惑なもんかい!こちとら可愛い息子ができたようなもんさ、大歓迎だよ!」
「ありがとうございます。でも…」
ローズの家族が見守る中、ルークが俯いてそう言うと、ローズは観念したように息を吐いた。
「…そうだね、アンタも人を捜してるんだし、引き止めてはられないねぇ…。でも、本当に無理だけはしないでおくれよ?辛くなったら、いつでも帰ってきていいんだからね」
「っはい…ありがとうございます」
あまりにも優しい言葉に涙が溢れそうになってしまうが、あまり泣いてばかりでもいけない。
ルークは一瞬声を震わせただけで、にっこりと微笑んでみせた。
「じゃあ俺…、行ってきます!」
**********
「チッ…」
ここ最近、相棒はいつもイライラしているように見えた。
彼がイライラしているのは実を言えばいつものことだが、最近はそれが一層大きくなったように思えるのだ。
彼は誰に対しても自分のことをよく話さなかったが、自分には彼のことはよく分かっている。
何故なら、二人は相棒だったから。
彼は自分と同じモノを持つ、とても特別な存在だったのだから。
「…くそっ…!」
木陰で休んでいる間、相棒はずっとそんな声ばかりを漏らしていた。
自分はいい加減痺れを切らし、ゆっくりと彼に近付いていく。
そして、声をかけた。
『…ここ最近、落ち着きがないようだ。お前の望みは果たしたのではなかったか』
そう言えば、彼は目をぱちっと見開き額に手をやった。
そしてふと自分の方を見て、眉を顰める。
「お前…ローレライ…ずっと引っ込んでやがったな…」
明らかに不機嫌だ。
こうなるともう何もかも気に入らないのだろうとローレライは呆れ、しかしそれを表に出すことはなく。
『レプリカとは言え、あの者も私と同じモノを持つ存在だ。それがお前に傷付けられるのを見ているのは…忍びなかった』
それを聞くと彼は意外にもその答えを気に入ったようで、彼――アッシュはニヤリと笑うと地面に視線を落とした。
「フン…お前にそんな感情があったのかよ?レプリカを傷付けられたくなかったのなら、俺から奪い取れば良かったんだ」
『あの者はお前のレプリカだ。私に指図は出来ない』
「えらく弱気じゃねえか、ローレライ?世界が聞いて呆れる…」
アッシュは随分上機嫌になったようだった。
ローレライは心中で息を吐き、どうしようもないと呆れてしまう。
…が、次の瞬間。