Replica*Doll
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「私を…ですか?」
ガイの屋敷を出て、グランコクマ宮殿の謁見の間で言い渡された命令にジェイドは首を傾げた。
「ああ、預言についての話は今日の会議で上手いこと収まった。だから明日、導師イオンとその護衛がダアトに帰還する。お前はそれに付き添って、ダアトまで行って来い」
「…何故、わざわざ私を?」
分からなかった。
何故、大佐格のジェイドを護衛につけるのか。
その意図が分からずジェイドは眉を顰めたが、ピオニーはにっこりと笑った。
「なんだ、一人じゃ帰りが寂しいか?それとも俺がいなきゃ寂しいか」
「やめて下さいそんな笑えない冗談」
「ははっ、厳しいな…。分からないか?ルークがいなくなっただろう?」
「………私に、捜せと?」
ジェイドはそう呟き、溜息を吐いて首を振る。
「なるほど、貴方らしい考えですね…どうせ」
「ガイも連れてってやれ、なんて言うんでしょう?」
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次の日の朝、ガイの屋敷に行くと玄関に入ったところで彼に出くわした。
「…おはようございます」
「ああ、おはよう」
彼は広い玄関の壁に凭れて腕を組んでいた。
…まるで、何もかも知っているかのように。
ジェイドは苦笑し、肩を竦める。
あの皇帝陛下ときたら、一体何処まで用意周到なのだろう。
ジェイドは眼鏡を押し上げ、顔を上げた。
「…話は、聞いていますね?」
「ああ、イオンをダアトに帰すんだろう?」
「…で」
「ルークを捜す、…と。いつでも行けるぜ?」
彼はおもむろに壁から離れ、にっこりと笑う。
「さあ!さっさと行こうじゃないか、旦那?」
あのガイが、いつまでも落ち込んでいるわけはなかった。
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「そういえば、ティアはどうしたんですかぁ?」
ダアトに向かう船で、アニスはゆったりと海を眺めながら何と無しに訊いた。
「ひきこもってたガイの書斎の扉をぶち壊してからいなくなっちゃったじゃないですか」
「そう言えば、彼女に会ったのはあれが最後でしたね」
イオンもアニスの横で同意する。
そう、書斎にひきこもってしまったガイをどうするか。
途方に暮れるようなその状況を無理矢理に打開したのは、他でもない、ティアだ。
ティアがその杖で、見事に扉をぶち破ってしまった。
…が、ティアはそれっきり姿を見せず、壊れた扉の文句も言えなければガイについての礼も言えない。
「ティアは昨晩のうちにグランコクマを発ったようですよ」
「…そうらしいな、俺のところにも家来から報告が来たよ」
海風に髪を揺らすジェイドが答え、その横で船べりに身体を預けるガイも頷く。
「なんでも、人を捜してたらしい。結局グランコクマにはいなかったんだとさ」
捜している人がヴァンだということはあえて伏せて話す。
そうするとアニスも納得したように頷き、ふぅ〜んと返した。
そして疑問が解決し、さも話は終わったと言うようにイオンを向く。
「イオン様、あんまり風に吹かれてると体調を崩しますよー!そろそろ中に入りません?」
「そうですね、少し休みましょう」
「私もご一緒します。ガイはどうしますか?」
「いや、俺はもうしばらくここにいるよ」
船室に戻っていく三人を見遣り、ガイは軽く手を振る。
そしてもう一度海を見遣れば、自然と漏れるのは深い溜息で。
「…何処に行っちまったんだ、ルーク…」
そしてその口を開けば出てくるのはルークの名前しかない。
どうしてルークは出て行ってしまったのだろう?
誘拐された訳ではない。
何故なら、ピオニーが用意してくれていたというルークの新しい服も装備品も、全て無くなっていたから。
それを置いていた机が壊れていたのは気になるが、誰かが争ったような形跡もない。
本当にルークが自らの意思で出て行った、そんな有り得ないような話ばかりを裏付けるような痕跡が医務室には沢山残されていたという。
「…今何を考えたって、意味がない、か…」
ガイは風になびく金色の髪を掻き揚げて呟く。
そう、今は何を考えても仕方が無い。
勝負はダアトに着いてからだ。
ダアトでイオンとアニスを無事に帰し、そこからルークの捜索を開始する。
そう、どちらかと言えば、今考えなければならないことは導師イオンをダアトに無事に帰すことだった。
「そろそろ、俺も船室に戻るか…」
ガイはフルフルと嫌な考えを振り払うように頭を振ると、先程イオン達が入っていった扉に向かった。
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