Replica*Doll

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「えっと、その…名前は、ルーク…です」

果たしてこう名乗っていいのかと思いながらも、ルークはその名を口にした。

「へえ…じゃあルーク。アンタは旅か何かの途中だったのかい?」
「え?は、ああ、まあ」

ルークは非常にやり辛そうに答え、頬を掻いた。
こういう属性の女性と話すのは初めてだ――いやしかし、こういう人にやたら干渉しようとするところはピオニーによく似ていたかも知れない。

(俺、ピオニー陛下、苦手だったんだよなぁー…)

勿論嫌いではなかったが。

ルークは結局取り押さえられ、大人しくローズの料理を頂くことになった。
その際に、ローズが色々と質問を投げかけているのだ。

「アンタ、一人でいたけど、仲間はどうしたんだい?」
「いえ、一人なんです」

今ここにガイがいたらどれだけ心強いだろう。
そう思うと少し泣けてきて、ルークはそれをこらえるようにぎゅっと唇を噛み締め、キャベツを飲み込んだ。

「そうかい、大変だったねぇ…。身体の方はどうだい?」
「もう大分…平気です。あの…俺、なんでこんな所にいるんですか?ここって何処なんですか?」

ルークがせっつくように訊くと、ローズは ああ、と事も無げに答えた。

「エンゲーブだよ?食料を出荷してグランコクマから帰ってくるときに、テオルの森で倒れてるアンタを見つけてここまで運んできたって次第さ」
「それじゃあ、ここからグランコクマって、どれぐらいかかりますか…」
「そうだね…徒歩はちょっと分かったもんじゃないけど…辻馬車なら、一晩や二晩や三晩はかかるかも知れないね」
「…辻、馬車?」
「アンタ、知らないのかい?」

困ったようにルークが訊くと、心底驚いたようにローズが聞き返した。
ルークはガイに辻馬車のことなど教えてもらってはいない。
グランコクマの外のことなど、何も知らなかった。

「辻馬車ってのは、動物に引かせる荷車みたいなもんのことさ。貨物を運んだり人を運んだりできるんだ」
「そうなんですか…」

実の所、ルークは一度辻馬車に乗ったことはあるにはあった。
しかしそれはルークの意識も完全に失われていたときで、そう、ティアがガイの目の前に現れたときだ。
あの時ルークはずっと昏睡状態だったために、ルークはそのことを憶えていない。

ローズが困ったように首を傾げた。
頼りなくて仕方がない、といった感じだった。

「アンタ、辻馬車も知らなくて一体何処に行くつもりだったんだい?」

何処に…?





「ダアトです」
「ダアト?」

ルークは、何故自分がダアトに行くと答えたのか分からなかった。
しかしローズに聞き返された辺りから、ルークは心の中で、俺はダアトに行きたかったのかも知れない、と思い当たった。
口から突然出たその言葉は、嘘ではないのだ。
ルークはその一言で、どんどん自分の衝動の真意を理解していった。

アッシュに、会おうとしているのだ、無意識に。
アッシュに会って、もう一度、ちゃんと話がしたかった。
けれどアッシュは怖い。
いきなり連れ去って、殴ったり蹴ったり、挙句の果てには犯す。
そして殺す。
ルークはアッシュに会いたいという自分の思いを理解した途端に背中が粟立つような感覚を覚えた。
あんなに怖い自分のオリジナルに、一人で会いに行こうとしていた。
そう思うとぞっとしたのだ。

「ダアト?預言でも詠んでもらうのかい?」
「いえ…人を捜してるんです。どうしても、会いたい人がいて」

それでもルークの口はそう言った。
ルーク自身、グランコクマに帰る気など無かった。
帰っても、きっとガイにもジェイドにもピオニーにも、イオンにもアニスにも会えない。
会いたくない。
特に、ガイ。

(だって俺、すごく悪いことをしたのに…)

きっとルークはガイに助けられたのだろう。
あの洞窟で、自分の名前を呼ぶガイの声がかすかに聞こえた。
そして生きているのだから。
つまりそれは、ルークの汚れた姿を見てしまったということ。
それだけで後ろめたいのに、ルークがレプリカで、アッシュの何もかもを壊してしまったことや、アッシュが――ルーク・フォン・ファブレが生きていることなんかを知られてしまったら…。
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