Replica*Doll

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「いらっしゃいませー!」
「エンゲーブのおいしい林檎だよー!」
「採れたての野菜もどうぞー!」



………眩しい…。

お腹、空いたなぁ…。

ここは、何処なんだ…エンゲーブ…?

林檎…野菜…食べ物…。



………?





「は…ッ!!」

――ガバッ!!

「っ…ここは…!?」

起き上がると、そこは人で賑わう市場のような所だった。

「俺…寝てたのか…?」

ルークは布で作られた簡易テントの下で眠っていたらしい。
すぐそばには商売に用いるものと思われる野菜が沢山転がっていて。

「俺…なんでこんな所に…?」

ルークは頭を振って考えた。
グランコクマの医務室で目が覚めて、それからグランコクマを抜け出してただひたすらに走った。
どうしてかは分からないが、勝手に足が動いて…。

(それで俺、変な森みたいなのに入って、そこで…)

倒れたんだ。
ルークはそう思って僅かに顔を上げた。
森の中を走っていると段々頭がクラクラしてきて、足取りがおぼつかないことに気付いた途端、視界が反転した。

(貧血起こしたのかな、俺…)

情けない。
ルークが溜め息を吐いて額に手をやったその時、テントの影の中にいるルークに更に影がかかったのを感じて、ルークは即座に顔を上げ、腰の剣に手をやった――が、拍子抜けした。
ただの村人だ。

「おや、目が覚めたかい、坊や?」



**********



その村人は、名をローズといった。
この村を取りまとめる村長的な立場にいるらしい。
見た目はそう、女の割には身体つきががっしりした、いかにも頼れるリーダーのような貫禄も、そして優しさも兼ね備えた目をしているのが特徴だった。
ローズはルークを家へ案内すると、席に着かせたルークの元に薄く焼いた肉の皿と緑黄色野菜を多量に使ったサラダボールを運んできた。

「あ、あの、ローズさん…?」
「食べな。アンタ、顔が真っ青じゃないか。まずは美味しい物を沢山食べて養生するべきだよ」
「そんな、俺…見ず知らずの人に…頂けません」

きっとこの人も、ルークがレプリカだということを知ったら、顔を顰めるに違いない。
人の人生の何もかもを奪い取った極悪人に、救いの手など差し伸べないに違いない。
今すぐ逃げ出してしまいたかった。
人を裏切ってしまう前に、まず信用なんてさせなければいい。
レプリカとして生まれたルークには、そんな道しか残されていなかった。
ルークは椅子を鳴らして立ち上がると、ぺこんとお辞儀する。

「あ、あの、俺、本当に大丈夫です。だから帰りま――」
「ちょいとお待ちよ!アンタ、一体何処に帰るってんだい!」

早々に家を出ようとするルークをローズが呼び止める。
帰る場所?
帰る場所など無い。
自分はレプリカなのだから。
もしレプリカに帰る場所があるならそれは土。
レプリカに死以外、一体何処に帰る場所があるだろう?

「…っ俺、本当に、大丈夫ですから…!」
「ちょ、ちょっと坊や!?」

必死に出て行こうとするルークを必死に止めるローズ。
おかしな絵面だった。
その証拠に、ルークが勢い良く開け放った扉の外からは、困惑しながらもおかしそうに笑いをこらえる村人達が数人。
ローズはそれを見て、アンタ達も手伝いな!と叱責する。
それを聞くと村人達は慌てて背筋を伸ばし、ルークの取り押さえにかかった。



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