Replica*Doll

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「水攻め…!?」
「はい…洞窟内に拘束して拷問にかけてから、洞窟内に潮が満ちるのを利用して溺死させるのです」
「…ルークが…」

ペールから聞いた話にガイが蒼白な顔で俯く。

「しかしガイラルディア様、まだそうだと決まったわけでは…!」
「テオルの森で目撃情報がない今、アッシュって奴が森を突破した可能性は薄い。俺はその洞窟を探すしかないんだ」
「しかし、この辺りだけでも随分な数の処刑洞窟が確認されています!無茶です!」
「だからって俺に何もせずに待ってろってのか!?」

ガイは眦を吊り上げ、声を張り上げる。
ペールが口籠り、首を竦める。

「…俺は昔…ルークを…公爵家の息子のルーク・フォン・ファブレを護ってやれなかったんだ…それどころか、あいつの心まで傷付けた…。お前も知ってるだろ?俺は…昔失くした大切なモノにいつまでも捕らわれて、今ここにある大切なモノの存在を見失ってた…だからルークまで失くしたんだ…」
「ガイラルディア様!その非はあのファブレ公爵にあるものであって、決して貴方様の責任では…!」
「いや、俺のせいだよ。確かに、ファブレ公爵が俺の大切なモノの全てを奪っていった…でもな、また新しく手に入れた幸せに気付かないまま、それを壊したのは俺なんだ」

ガイは俯いていた顔を上げ、真っ直ぐペールを見据えた。

「何もかも全てリセットされたわけじゃないさ。お父様も、お母様も、マリィ姉様も、本物のルーク・フォン・ファブレも、みんな死んじまったんだ…それでも、みんなの存在も、失くした責任も全部この心の中にある。大切にしてきたはずなのに全て失った…そんな俺の前に現れたのが、あのルークなんだ!こんな俺でも、何も言わずにそこにいて…もう自由に何処までも行ける身体になっても、あいつは俺のそばにいてくれた…俺はルークを護るって決めたんだ…。もう二度と失いやしない…!!」

今度こそ。
今度こそ、本当に大切なモノに気付いて、護りきろう。

ペールは小さく息を吐くと、すっと目を細め、微笑んだ。

「ガイラルディア様…ご立派になられましたな。ペールは嬉しゅうございます…わしはもう何も申しません、ルーク様を、…今度こそ、お護り下さい」

例えルークがアッシュという男のレプリカだったとしても。
ルークが大切なモノであることに、変わりはないから。

ガイは少しの間だけ目を閉じ息を吐くと、目を開き、ゆっくり、けれどはっきりと頷いた。

「ああ、ペール…。何が何でも、護りぬいてみせるさ」



世界ってのは、残酷な事をするもんだ。
表では平和がどうのこうの言ったって、結局光があれば必ず陰ができるように、諸悪はいくらでも存在している。
例えば、花が咲き乱れる明るい街の道を一つだけ横に逸れてみる。
そうすれば路地裏、そこは街の風景からは想像もできない程どうしようもない場所だったりする。
要するに、犯罪犯したい放題。

それでも世間から目を逸らしてはいけない。
そこに護りたい存在が在るから。
俺は独りじゃない、大切な人がいるんだ。
その大切な人が穢れた世間に傷付けられるなら、俺は明るい街の真ん中でも、どうしようもない路地裏でも、何処にだって駆けつけてこの剣を振るう。
この闇だらけの世界の中、俺はルークという光のために。





**********





「――ルーク!!」





**********





――名前

俺の 名前

…違う

俺の名前じゃない

それはアッシュの本当の名前だ

でも

その声は

アッシュじゃなくて、俺を呼んでる

分かるんだ

俺を呼んでる

探してる

雨の中でずっと泣いてる

金色の人

俺が生きようと思った理由

赤くて熱いマグマの中に、雨に打たれて泣いてる金の人と赤の人

二人を護ってあげたくて俺は生まれた



………?



金色の人がいる

雨の中で泣いてる

でも、これは俺の頭の中に焼き付けられたただの虚像なのに

もう一人、金色の人

虚像よりも大きくて、彼を取り巻く水は雨なんかじゃなくて

………これは 現実?

目の前に、あの金色の人がいて

俺を探して










「――ルーク!!今助けてやるから…死ぬな…、死なないでくれ、ルーク!!」





「………ガ、イ………?」
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