Replica*Doll
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「ガイラルディア様」
屋敷を出る直前に、屋敷の使用人・ペールに呼び止められた。
ガイが振り向くと、そこには箒を手に立っているペールがいた。
「…ペール」
ペールはガイがグランコクマに屋敷をもらった数年後、ガイがグランコクマで生きているという情報を掴んでバチカルから移ってきた。
そして、再びガイのもとに仕えたいと頼み込んできたのだ。
ガイは勿論それを認めて、屋敷に置くようになった。
ペールは今でもガイの良き相談役、使用人、そして剣の師としてガイのそばにいるのだ。
「…ペール。俺は、ルークを助けに行く…」
「ええ。わしもそれを止めはしません。ただ…そのアッシュという人物…」
「鮮血のアッシュか?」
「そうです。アッシュという者がルーク様を連れ去って殺すというのなら…この近くには、いくつか洞窟があります」
「洞窟…?」
「ずっと昔、グランコクマでは陰に潮の満ち引きを利用した処刑があったのです」
ペールの口からその声を聞いた途端に、血の気が引くのが分かった。
**********
「………」
ルークはついに何を言う気力も無くしてしまって、ぼおっとした視線を地面に落としていた。
アッシュに酷く犯され、傷付けられて、唇からは血と唾液が混ざった液体が一本の筋を作って流れ、涙も同じように静かに流れ続けていた。
身体のそこら中の傷から血が溢れ、秘部からはアッシュの精液がどろどろと流れ出ていた。
もう泣き喚く気力など無い。
痛みもほとんど感じない。
気が遠くなっているのだ。
視界が霞んでいる。
同時に眠くて、もうそろそろこの目は閉じてしまうだろう。
眠るのか、気絶するのか、…はたまた、死んでしまうのか。
それはルーク自身にも分からなかったが、意識はもう大分危ないところまできていた。
「…この辺でお前をいたぶってやるのは終わりだ、レプリカ」
さっと乱れた着衣を整え立ち上がったアッシュがふと後ろを振り返る。
そして、何かを感じ取ったようにその目をすっと細め、眉間に皺を作ってルークを見下ろした。
…鎖に繋がれたまま、だらしなく壁に凭れて死を待つレプリカ。
先程まではその姿を皮肉り、楽しむように見ていたのに、一度身体の熱が冷め虐待を終えると途轍もなく汚らわしいものに見えて、アッシュは一層顔を顰めた。
「…そろそろだな。…おい、レプリカ。俺の声が聞こえるか?」
「……ぅ…」
すっとしゃがみ込み、ルークの意識を確認するように顔を覗き込む。
「俺の声が聞こえるならもっと別の音にも耳を澄ませろ。自分に何が迫っているのか、分かるはずだ」
ルークはその声をぼんやりしたまま聞き、心の中で顔を顰める。
………何かが迫っている…?
ルークは耳に意識を集中させたが、海の波の音が聞こえるだけだ。
ルークが依然ぼおっとしたままでいると、アッシュは嘲るように鼻で笑って立ち上がった。
「そのうち分かるさ…あばよ、…レプリカルーク」
「!…アッシュ…!」
急いで顔を上げたときには、そこにもうアッシュはいなかった。
「…あ…しゅ…?」
確かめるように。
まさかそんな。
こんな暗い場所に一人置き去りにされたなんて。
暗闇に、一人きり。
まるで、もう一度あの何も感じられない人形に戻ってしまったかのように。
自分はここで生きているのに、人形のように扱われて薄暗い店の奥の箱の中。
今度は誰がここから救い出してくれるのだろう?
「…あ………ぃや…、……いやだ…っ!」
――ザザ…ッ!!
「!?」
さざ波。
…何か、音が大きくなってはいないだろうか?
そう言えば、先程アッシュが言っていた、迫っている何か。
一体何が迫っていると言うのだろう?
…波が。
波が、来ている。
「……、……な…み…?」
海水。
海水が、この洞窟に浸食してきている。
死ぬ。
「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!!」
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