Replica*Doll

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「いえ、ルークを育てることについて、私が貴方に協力すると言ったのは嘘ではありません。しかしその動機は…ルークの正体が、私が一切の責任を負うべきものだったからです」

その言葉を、誰もが理解しかねていた。
ガイは何か、恐怖感に似たものを感じながらも、その続きを促した。

「皆さんはフォミクリー、というものをご存知ですか?」
「…確か…レプリカっていう模造品を作る技術だったな。でも音素振動数が同じである同位体を作る技術はまだ確立されていないとか…」
「その通りです。この世界の人や物は、一人一人、そして一つ一つ、全く違う音素振動数というものを持っています。そしてその音素振動数が全く同じである二つの存在を、我々は同位体、と呼んでいます。これは本来有り得ないことで、人為的に作り出すしかないのですがね?そしてフォミクリーという技術は、ガイが言った通り、この世に存在している物の模造品を作り出す技術のことで、その模造品をレプリカと呼びます」
「それが同位体なんですかぁ?」
「いいえ、これも、見た目は同じでも音素振動数だけは違ってしまうんですよ」

ジェイドが苦笑いして答える。

「そしてフォミクリー技術は、生物にも転用できるんです。以前はフォミクリーで生物のレプリカを作ったりもしましたが、レプリカは被験者(オリジナル)に比べて、能力が格段に下がってしまうんです。その上被験者も、レプリカ情報を抜かれて、十日前後には異変が起こり、最悪死ぬケースが多い。ですから、フォミクリー技術はとっくの昔に禁止されました。…という感じのフォミクリーなのですが」

ジェイドが眼鏡を押し上げ、顔を顰めた。



「私が推測する限り…ルークは…アッシュのレプリカです」



**********





――ザザ…ッ………ザザザ…!

寄せては引いていく波の音。
ルークは両手の拘束を見ても抵抗する気も起きずに、その音をぼんやりと聴いていた。

「…俺は…だ…れ……人……間……?」

口から弱々しく零れる声に、アッシュは盛大に溜息を吐いたようだった。

「…分からねえのか?」
「…うん…」

大人しく頷くと、アッシュはその答えが気に入ったらしく、おかしそうにくつくつと笑った。

「言っただろう?お前は俺の『レプリカ』なんだってな」

アッシュはルークのそばまで来ると、乱暴にルークの胸倉を掴み、引き寄せた。
アッシュは自分の名前を名乗ってから、レプリカについて話し出した。
フォミクリーについてだ。
ルークはそれを何と無く聞いていながらも、大体のことは理解していた。
要するにルークは、そのフォミクリー技術を使って作られた、アッシュのレプリカだったのだ。
その話だけで、もう小一時間は使ってしまったのだろうか?
精神的に疲れきったルークに、ルークよりもいくらも低い声が降ってきた。

「…お前が生まれたときのことを教えてやる。お前は…俺が十歳のとき、沢山の科学者達の手によって生み出された」



**********










「…最近、我が息子に元気がないとファブレ公爵が仰っていたぞ」
「…ヴァン師匠…」

雨が降るファブレ公爵邸。
その私室で、ルーク――まだルークと呼ばれていた少年アッシュは、力無くヴァンの方に振り向いた。

「聞いたぞ。…ガイがお前を裏切ったそうだな」
「違う!!」

アッシュは反射的に振り向いたが、はっとしたように目を瞠ると、ゆるゆると頭を振り、すみませんと呟いた。

「…そうですね…ガイは…俺を………裏切りました」

アッシュは沈んだ声で呟き、俯いた。
ガイはアッシュを殺すつもりだった。
だからアッシュは、ガイを殺さなければならなかった。
返り討ちにしなければならなかった。
…けれど、それはできなかった。
ガイは、いつもそばにいてくれた、大切な人だから。
だから逃がした。
もう二度と、目の前に現れるなと。
もし次に会ったときは、その時こそガイを殺さなくてはならなくなるから。
本当は離れたくなかったけれど、それでもガイはアッシュのそばにいるべきではなかったのだ。
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