Replica*Doll

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「ペール…。ぼくを…オレを、キムラスカに連れていって…」
「しかし…どうなさるのです、ガイラルディア様!?」

ガイはヴァンから降りると、すっと目を閉じた。
そして深く息を吸い、吐き。
目を開け、顔を上げた。





「ファブレ公爵に、復讐する」





**********



「う…ペールと、はぐれたぁ…」

人間、そう簡単に変われるものではなかった。

ガイはじわっと涙が溢れてきた目を擦りながら辺りを見回した。
ファブレ公爵に屋敷のみんなの仇を討つと決めたのに早速泣き出しているではないかと自分を叱咤するも、もともとガイは気の小さい子供なのだ。
涙はどんどん溢れてきた。
ペールやヴァンに教わっていた剣術。きっと役に立つだろうと背負った剣が重い。
これでも相当小振りな物だが、まだ小さいガイの体格にはやはり大きすぎた。

初めて来たこんな場所で迷子だ。
ここは敵の本拠地なのに。
キムラスカ王国の、しかも首都バチカルなのに。
その港で、ガイは自分を連れていたはずのペールを見失い、途方に暮れた。
本当ならペールと共にファブレ公爵邸まで行き、使用人として雇ってもらえるように請わなければならない。

それがこの為体(ていたらく)だ。
ヴァンに励まされ、ここまで来たがやはり自分には復讐など毛頭無理なことだったのだろうか?
こんな情けないようでは、復讐は愚か、ファブレ公爵邸へ使用人として潜入することもできないのだろうか?

(ちがう!ちがう!オレはガイラルディア・ガラン・ガルディオス、ガイラルディア・ガラン・ガルディオスだ!おとうさまの…いや、父上の息子なんだから、できる、できる…!)

ガイは一人頷くと、キッと顔を上げて歩き出した。
きっとペールは先に行ってしまったのだろう。そして今はガイがいないことに気付き、必死で捜しているに違いない。
それなら、ガイは先へ進まなくてはならない。そうすればペールとも会える。
単純に考えて、そうなのだ。………行き違いにならなければの話ではあるが。

(………後ろ向きなことは考えちゃだめ、だよな…うん)

昔マリィ姉様がまだ生きていた頃に言っていた言葉だ。

(ねえさまぁ…)

…またちょっと泣けてきた。



**********



「…え、先、入っちゃったんですか?」
「ああ、さっき白髪の爺さんが来て、自分と孫でここで働きたいって言って…今は面接なんじゃないかな。坊主、あの爺さんの孫なのか?」
「ま、孫ですか?え、えと…はい」

恐らくペールが嘘を吐いたのだろう。
まさかガルディオス家の生き残りとその家来ですなどと言って、ペールはともかく、ガイが生きて帰れるわけがない。

ガイが緊張しながら頷くと、ファブレ公爵低の門番は笑ってガイの頭を撫でた。

「はははっ!お前が雇われたら、そりゃ随分小さい家来だな。なんだ、護衛になるのか?それとも執事か、ええ?」
「わ、分かりませんけど、その…うぅ」

この門番がかなり人当たりの良い人間なのは分かった。
恐らくこれがこの男の性分なのだし、とやかく言っても仕方ないのだが。

(こ、こわい…っ!)

笑いながらぽんぽん頭を叩かれるのだ。
こんな親しげに触れられたことのない人間が、敵の本拠地で、その門番に、こんなに過剰なスキンシップを受けてどんなに怯えているかきっとこの門番は分からないだろう。
もう泣きそうだ。

「あ、あの、門番さん…ぼく、ペール…ペールおじいさんのところに行かなきゃ」
「え?ああ、そうか、でも悪いな。爺さんはともかく、お前さんは多分雇って貰えないよ、まだガキだからな。まあもう数年したら大丈夫だろうが…今はな、言っちゃ悪いが、足手纏いを増やすわけにもいかないそうだしな」
「今、は…?」
「ああ」

本格的に話し込む気になったらしい、門番が槍を杖にしてガイの目線までしゃがみこむ。

「ここ最近、ファブレ公爵にお子様が生まれたそうだ。だから屋敷内は今その子育てに忙しくってな。お前さんみたいな、まだ大して力も無いようなガキは断られちまうだろうさ」
「そ、そうですか…」

ガイはがっかりしてしまって、力無く項垂れた。

そしてその数十分後、屋敷から出てきたペールに、もう一度同じことを通告されたのだった。


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