Replica*Doll

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幼い頃のガイは、今は無き美しい街、ホドに住んでいた。
ホドに大きな屋敷を構える、ガルディオス伯爵家の息子だったのだ。
本名ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。
今はバチカルで軍部に勤める従姉妹、セシルの名を借りてガイ・セシルと名乗っていた。
けれどそれまでは、ホドで暮らす貴族の御曹司だったのだ。

ガルディオス家に仕える使用人の中に、ヴァンという男がいた。
使用人というよりはほとんど友人や兄貴分のようなものだったが、両親や姉のマリィ、使用人のペールやヴァンなど、沢山の人に囲まれて、確かに幸せだった。

しかし、それは急に崩れた。

ホドにキムラスカ王国兵士が押し寄せ、ガルディオス邸へ攻め込んだのだ。
ガイやマリィは屋敷の奥へ奥へと連れられたが、周囲のメイドも、マリィすらも、ガイを庇って目の前で死んでいった。

『ガイラルディア様だけは!』

『ガイラルディア様だけはお護りしなければ!』

兵士に斬りつけられた女達は次々に倒れ、ガイを守るように覆いかぶさっていく。
床一面が血に濡れて…





「ガイラルディア!!」
「ガイラルディア様!!」





二人の男の声がした。

力無く見上げると、そこにはヴァンとペールが立っていた。
二人とも身体中血塗れだったが、それは死体を掻き分けてきたからであって、どうやら傷は負っていないらしい。

「ガイラルディア…キムラスカ兵はもう去った。しかしもうじき再びキムラスカの兵士が来て、生存者の捜索を始めるだろう。その前に逃げるぞ」
「ヴァン…っ、でもヴァン、おとうさまはどこ?おかあさまは!?」
「ガイラルディア様、早くなさって下さい、まだ辺りに兵士が残っておるかも知れません」
「でもペール!おねえさまを…マリィねえさまをたすけてあげて!メイドたちの下敷きになって…苦しそうなんだ、はやく出してあげて!」
「ガイラルディア様…もう誰も生きてはおりません。わしらだけなのです」

ヴァンが死体に埋もれたガイを暖炉から引きずり出し、そして抱き上げる。
そのすぐ後にペールが続き、周囲を警戒しながら廃墟と化した屋敷を歩いた。
ガイはその無惨な光景を、呆然としながら眺めていた。
美しかった白い柱も石像も今ではただの瓦礫。
いつも温かな笑みで接してくれたメイドや執事達も赤い血に塗れてそこら中に屍となって蔓延っていた。

「ヴァン…みんな…どうなっちゃったの…?」

震える唇で、ガイは怯えながら尋ねた。
ヴァンは前を向いたまま、何の抑揚もない声で答えた。

「――死んでしまったのだ。今回のことは…キムラスカの、ファブレ公爵が命じたことだ」
「ファブレ…公、爵」
「そうだ。…憎いか、ガイラルディア?」

ガイは力無く首を振る。

「分からない…ただ怖いんだ、ヴァン…。さっきまで、みんな元気だったよ。なのに、どうしてこうなっちゃったの…!」

ガイはヴァンに縋って嗚咽を漏らした。

「ガイラルディア様…」
「ペール…ぼくだけ、なんでぼくだけ、生きてるの…みんなもういないよ…なのに、…みんなぼくをかばって死んじゃったんだ…ッ!」

ヴァンがふと立ち止まり、ペールがガイの手を握った。

「ガイラルディア様、わしらがおります。どうかそんなことを仰らずに、生き抜いて下さい…貴方様が希望の光なのです!」
「そうだ、ガイラルディア。例え家族や家来の命が失われても、お前は今ここに生きている。自分に何が出来るか、考えるのだ」
「ヴァン…。ペール…」

ガイは二人を涙に濡れた目で見つめた。
自分に何が出来るのか。

ガイはきゅっと唇を噛み締めると、両目に溜まった涙をごしごしと拭いた。
そして、キッと顔を上げた。

そう、今まで自分は内省的な性格で、思ったことも上手く口に出せないような人間として生きてきた。
散々周りに甘やかされた結果だ。

それでは、いけない。

自分はガルディオス家の跡継ぎなのだから。

今は亡きガルディオス伯爵の血を引く男なのだから。



…これからファブレ公爵に立ち向かってゆく、復讐者なのだから。
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