Replica*Doll

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「ルークおはよっ!ルークも一緒に朝ごはん食べに行こうよー、アニスちゃんはイオン様とルークの隣なの!」
「お、俺っ?」

抱きつかれて困惑した声を上げるルークを余所に、アニスはルークの背中を押して部屋を出て行く。

「ささっ、行こー!!イオン様とガイも早く来てねー!!」
「いてて、いて!こ、腰が!アニスー!!」

ルークの悲鳴が響き、その姿が見えなくなると、ガイとイオンは顔を見合わせて笑う。

「アニスはルークがお気に入りみたいだな…」
「ルークは大きいのに、なんだか弟みたいってアニスが言ってましたから」
「ははっ、そりゃ随分大きい弟だな…」

ひとしきり笑って、ガイはそれが治まると、にわかに真剣な表情を湛えてイオンを向いた。

「イオン…。昨日…ルークと話をしていたが、どんな話だったかを訊くのは、失礼かな」
「…昨日、ですか?」

イオンは何か思案するように俯き、そして顔を上げた。

「その質問にお答えする前に、貴方にも…訊きたいことがあります。ガイ、昨日ルークに聞いたのですが、彼はダアトの孤児院出身だそうですね。ですが…それは嘘ではありませんか?以前孤児院の孤児の情報を見たことがありましたが、彼のような孤児がいたという書類はありませんでした。それに、ルークと貴方が初めて出会った時のことを聞くと、どうもそこはダアトではない…」

ガイは目を見開き、息を吐いた。
そして降参、とでも言うように両手を挙げ、自嘲気味に笑って見せた。
…君って案外鋭いな。

「…そうだよ。ルークは、ダアトの孤児院出身なんかじゃない。ジェイドだけはこのことを知っているんだが、…ルークは、ケセドニアのとある店で店主から引き取った、身元の分からない人間なんだ」

ガイはケセドニアでのことを全て話して、それが終わると、すっと目を細めた。

「イオン…お前は何か知ってるんだな?」
「…言えません。これは…あくまで僕の勝手な憶測であって、それに、機密事項なんです」

それを聞いた瞬間、ガイは、自分と、ルークとイオンの間に何か見えない幕が降りたのを感じた。

「機密事項…!?俺はルークを保護してる…当事者なんだぞ!?当事者であるこの俺に、昨日初めてルークに会った第三者がなんで…!!」

今この幕を取り払わなければ、自分は一生ルークのことを分かってやれるようにはなれない、きっといつも何処かで見えない壁に阻まれる…そんな気がした。

「ルークは泣いてた…俺に、助けを求めてたんだ…ルークのことはいつも俺が一番に分かってなくちゃいけないんだ!ルークを護る…そう決めたんだからな!!なのにイオン!なんでお前が…っ!!」



『たす…けて…!!』





「おや、まだこんな所にいたのですか?」





「なっ…ジェイド!?」

ジェイドが開きっ放しの扉からひょこっと顔を出した。

「何もそんなに驚くことはないでしょう。もしかしなくともお話の途中でしたか?これは失礼」
「…お前なぁ…」

いつもの調子で弁舌を振るうジェイドにガイは当然の如く息を吐き、イオンが苦笑してから「ジェイド、おはようございます」とお辞儀をした。

「扉も閉めずに朝から喧嘩ですか?ガイ、いくら昨日打ち解けたからといって導師様にそんな事を言っては、メイドにでも見つかって大変なことになりかねませんよ?」
「あれは…っ!!………いや…、すまない…イオンにも、酷いことを言っちまったな…」
「いえ、貴方にお教えできない僕がいけないんです。すみません」

イオンは俯き謝罪をする。
それを見て、ガイは自分がどれだけ大人気のないことをしたかを痛感する。
いくら導師とは言え、こんな子供相手に思いっきり怒鳴ったのだ。
自分らしくない、大人気ない、情けない。
イオンは本当にいい子なのだ。

なのに、何処か釈然としない苛立ちを拭いきれずにいた。



『たす…けて…!!』



頭を抱えて泣き叫ぶルークの姿が、脳の片隅にふと、けれどしっかりと印象を残しながら、よぎった。




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