Replica*Doll
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ずっと辿っていくよ
君のイノチ
君が歩いてきた道を
僕は行く
そうすれば
いつかきっと
今の君に会えるから
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いなくなってしまったはずの少年ガイラルディアがそこにいることに、ルークは気付いた。
「…アッシュ?」
呼んでも、彼は答えなかった。
『マリィ姉さま!』
彼は何か本を楽しそうに抱えて微笑んでいた。
呼ばれた女性も彼に優しく微笑む。
『ガイラルディア』
そこでハッとする。
これは、アッシュじゃない。
紛れもない、ガイ本人だ。
ただ…随分小さかったが。
ルークは暗闇のすぐそこに浮かび上がったその風景を呆然と見ていた。
白を基調にした美しい屋敷。
姉弟であるらしい彼らはそれは幸せそうに笑っていた。
ルークはそれを横にじっと見たまま歩き出した。
その風景が随分後ろの方になって消え、ルークがやっと前を向いたとき、ルークは目の前にまた新しい風景が映っているのを見た。
「ひっ…!!」
思わず喉がヒュッと鳴った。
そこは、惨状だった。
白い壁にベットリと新鮮な血が飛び跳ねて、切り刻まれたグロテスクな死体の山に小さな少年が一人震えて座り込んでいた。
「…ガイ」
小さな小さなガイラルディア。
泣いている。
怯えている。
「っガイ!!」
ルークは慌てて走り出し、彼が縮こまっている暖炉に近寄った。
死体を避けて進んで、ようやくガイのところへ辿り着いた。
「ガイ、こっちだ!もう大丈夫だぜ、俺と一緒に行こう?」
しかし、ガイラルディアの怯えきった目はルークを見ていなかった。
ルークを突き抜けて、その遥か上の天井を見ている。
青い唇が震えた。
『ね…さま……どこ、ですか?…いま…僕が、…怖くない、ですか…?』
「ガイッ!?」
ガイはおもむろに立ち上がり、グチャグチャになった死体の山を掻き分けだした。
まるで自分の血かと思ってしまうほどに付着したメイド達の血も、どろどろと気持ち悪く纏わり付く肉も気にせずに、一心不乱に山を掘った。
『ねえさま…!!ねえさ、…ま!暗い、でしょ?怖いでしょう…?ぼく、ぼくが、出して、あげ、ねえさ、ま、ねえさまぁぁ…!!』
「ガ、ガイッ、やめろよ!やめろって!!」
ガイの涙が、まるで水差しから零しているみたいにドボドボと、止まることも知らずに流れ続けた。
ガイの中の水分がなくなってしまうのではと危惧するほどに流れ続けた。
身体がガタガタと震えて、時々ガイの爪が誤って山の肉を突き刺した。
その度に哀れなほどにガイの身体が跳ね上がったが、それでも手は止まらなかった。
『ねえさま、とうさまと、かあさまの、とこ、ろへっ…ねえさまぁぁ!!』
「やめろ…ガイッ!!やめろ――ッ!!」
ルークは必死に止めようとするが、何故か子供であるはずの彼の力にちっとも歯が立たない。
まるでルークの腕など最初からそこにないかのように造作もなく跳ね除けて、山を掻き分ける。
そしてルークの最も恐れていたことが起こった――ガイは、姉を見つけてしまった。
『!!』
無残な姿になった姉を。
ガイは、笑った。
『ねえさま、ねえさま…いたそう…いたい、の、駄目だね…。あははッ…はは、どうすれば…いいかな…?』
すると、急にガイはこちらを向いた。
ルークはビクリと身体を震わせた。
ガイは死人のような、化け物のような目で、明らかにルークを見たのだ。
『ねえ、』
ガイラルディアは、にこ、ととても無邪気に微笑んだ。
『ねえさまを、助けてあげて?』
「………!」
『ねえさま、死んじゃう、でしょう?はやく、なおしてあげなきゃ…ねえ、治してあげて』
「お、俺には、できな…」
『ねえ』
ガシッと、またあの強い力でガイがルークの腕を掴んだ。
『ねえ、助けて』
小さなガイの笑顔は、まるで死人か化け物のようだった。
恐ろしい、この世のものではない笑顔。
『あははは…このままじゃ、ねえさま…だめだよねえ…このままじゃ、ねえさま死んじゃうよねえ…!!』
「い…、っ嫌だッッ!!」
そこでようやくルークは抵抗に出た。
腕をきつく握り締めるガイの手を解こうとする。
「さ、触るな…俺は、俺は何も出来なっ…嫌だァァ!!」
怖い。
怖い。
こんなのガイじゃない。
こんな怖いの、ガイじゃない。
性質の悪いお化け屋敷にいるようだ。
悪夢だ。
「ガイっ…ガイ!!」
ルークはガイラルディアを振り払いながらガイを探す。
「助けて、ガイ、ガイ…ッ!!」
涙がじわじわと溢れてきて、狂喜に満ちたガイラルディアの姿をぼやけさせた。
「嫌だ、ガイ!!ガイ!!」
お願い、ガイ。
助けに来て。
またあの温かい腕で俺を抱き締めて護って。
“ずっとそばにいる”って言って
“愛してる”って
“怖くないさ”って
俺に言って………――
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